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2021.03.17
犬のほめ方にコツはあるの?犬とのコミュニケーションは「全力」がキーワード
先日、犬の脳や行動に関する研究を行っているハンガリーにあるエトベシュ・ロラーンド大学の神経科学者アッティラ・アンディクス氏が、面白い研究結果を発表していました。
それは、犬が言葉を理解するプロセスについての研究です。
犬と一緒に暮らしていると、犬が言葉を理解していると感じる場面はいくつもあると思いますが、犬はどのように言葉を聞き分けて、理解しているのか、不思議に思いませんか?
その背景には犬が持っている素晴らしい能力と、犬との暮らしでも役に立ちそうな情報も発表されていましたので、今回は「犬と言葉」についてご紹介します。
犬が言葉を理解するメカニズムに関する実験
犬は「いい子だね!」と褒められると嬉しそうに尻尾を振ったり、褒められることでその行動を「良いことだ」「こうすれば家族が喜んでくれるんだ」と理解して、今後は喜んでもらえるような行動をするようになるなどの変化を起こします。
これは、犬が言葉の意味と言葉が示す行動や物をきちんと結び付けて理解しているからこそできるものと考えられます。
この能力について調査するために、今回の実験では、12頭の犬にMRIに入ってもらい、犬をほめる言葉をかけた場合と、犬が知らない言葉をかけた場合、そして「真剣で情熱的に」褒める言葉をかけた場合と「感情をこめずフラットに」褒める言葉をかけた場合を比較しています。
すると、犬たちが言葉の意味だけではなく、それ以外にもさまざまな情報を読み取っていることが分かったのです。
犬は飼い主の言葉の「感情」と「意味」両方を読み取ることができる!
今回の実験では、犬に言葉をかけるとまずは言葉のイントネーションに脳の皮質下が反応し、その後に言葉の意味を理解する部位(大脳皮質)が反応していくことが分かりました。
脳の中で、このイントネーションに反応する部分(大脳皮質下の聴覚野)は、人間においては音からポジティブな印象やネガティブな印象、その言葉を発した人の意図や期待など、さまざまな感情を読み取るために発達してきたものと考えられています。
そしてこの部分が言葉を聞いた後に大きく反応するということは、犬は言葉の意味よりも先にイントネーションからさまざまな情報を読み取っていると考えられます。
犬に言葉で指示を出す時には、そのイントネーションや伝え方によって犬の理解のスピードに違いが出そうです。
また、英サセックス大学の動物行動学者、デビッド・レビー氏は「犬同士のコミュニケーションには言葉というものはなく、コミュニケーションシステム(=吠え声)に意味とイントネーションとの明確な関係はないと考えられていたので、犬が言葉を聞き分け、意味を理解していることを示すこの結果は驚くべきものです」ともコメントしています。
犬同士のコミュニケーションでは、ニオイや吠える声などが使われますが、その際には脳の皮質下や大脳皮質といった部位は反応しません。
つまり、「人の言葉からさまざまな情報を読み取る」という能力は、犬が人と一緒に暮らすことで発達したものと考えられるのです。
犬をほめる時のコツとポイント
今回の研究結果では、犬は言葉の意味を理解する前に「言葉のイントネーション」や「言い方」から飼い主の意図や考えなどをある程度読み取っていることが分かりました。
このことは家族として一緒に暮らしている犬との日常でも役立ちそうです。たとえば、犬に言葉で指示を出したり、しつけの場面などでは、犬に「心からの誉め言葉」をかけることでより犬の理解が深くなる可能性があります。
そして、聞いたことがない言葉よりも知っている言葉の方が、より「言葉の意味」を深く考える時間が長くなるようです。
このことから、犬に何かを指示したり、教えたりするときに、上手くできた時には「普段から犬にかけている言葉」を使い褒めることで、犬は直前の指示や言葉の意味を深く理解することにつながるのかもしれません。
この素晴らしい能力を踏まえたうえで、犬とのコミュニケーションにも活用することが出来れば、より良い犬との暮らしに繋がっていきそうですね。
おわりに
犬は私たち人間と同じように、自分をほめる言葉をイントネーションと言葉の意味の両方で理解しています。
犬は私たち人間の感情を読み取ることが出来る、となんとなく分かっていましたが、脳の特定の部位が発達していることが分かり、そのことが実証されたような形ですね。
そして、誉め言葉をかける場合には、全力でないと犬には見透かされてしまう可能性もあるようです。
ですから、犬を褒める時は全力で心を込めて「よくできたね!」「すごいね!」と褒めることがポイント。いつも全力で生きている犬たちには、私たちも全力で向き合うことが、犬との信頼関係を作り、維持していくにはもっとも大切なのかもしれません。
参考文献
*1 2020年8月3日付「Scientific Reports」