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2023.06.07
ミドリムシ(ユーグレナ)とは?犬の健康に良いものなの?ドッグフードに使われる理由
ドッグフードに使用される原材料の中には、あまり馴染みがない食材がみられることがあります。名前だけの情報からはどんなものか想像しにくくて、「これってなんだろう?」と疑問に思ったままということはないでしょうか?
そんなドッグフードに使用される食材の中から「ユーグレナ(ミドリムシ)」と呼ばれることがある原材料について、その正体と含まれる成分、ドッグフードやオヤツに使用される理由についてご紹介いたします。
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POCHIのペット栄養管理士 岡安
ペット栄養管理士です。犬ぞりやフリスビーなど、犬とできるアクティビティが好き。大型犬を見るとテンションが上がります。
ユーグレナの正体は微生物の「ミドリムシ」です。
ドッグフードの原材料として使用される「ユーグレナ」は、微生物の一種である「ミドリムシ」の別名です。
ミドリムシは、理科の授業で顕微鏡で観察した記憶がある方も多いのではないでしょうか。
特長としては、植物と動物両方の特長を持っていることがあります。植物と同じように葉緑体を持っていて、光合成をおこない二酸化炭素から栄養を作ることができる一方で、動物のように細胞を収縮させて動くこともできます。
この2つの特長を持つミドリムシは、植物に含まれる栄養素と動物が持っている栄養素の両方を持っていることが大きな個性になります。
多くの場合、植物由来と動物由来の成分の両方を食事から摂取するためには、それぞれを組み合わせて食べる必要があります。しかし、ミドリムシはそれぞれの成分を一度に摂取できるので、少ない量で効率的に栄養素を摂取できて、効率的なのです。
■ミドリムシ(ユーグレナ)についてちょっと紹介
約5億年前に地球に誕生したミドリムシは、現代までほとんど姿が変わっていない生きた化石でもあります。
昆布やワカメの仲間で、淡水・海水両方に生息する種類も存在する生命力が強い生き物です。
繁殖も容易で安定的に植物由来、動物由来両方の栄養を摂取できる原材料として多くの大学、研究機関で食料・栄養・温暖化問題の解決策として研究が続けられています。
犬の健康に影響するミドリムシに含まれる機能性成分
植物、動物両方の特長を持つミドリムシにはさまざまな成分が含まれています。それらの中からとくに犬の健康に関係しそうな成分をピックアップしてご紹介します。
■クロロフィル
人間用の健康食品などでもよく目にするクロロフィル。小学生の理科の教科書でも登場した化学物質・「葉緑素」の別名です。
一般的には消臭や雑菌の繁殖、健康的な血行の維持に役立つと言われていて、口臭が気になる時のデンタルガムなどにも使用されることがあります。
■ルテイン
ルテインは、自然界では鮮やかな黄色を発する色素。カナリアの美しい黄色い羽毛やマリーゴールドの花弁の色はこのルテインに由来します。
ルテインは私たち人間や犬たちの眼の網膜の奥に存在する黄斑部や水晶体にも存在する物質です。
これらの部位でルテインは、活性酸素による眼の細胞の酸化を抑制していると考えられています。
しかし、シニア犬になると少しずつ酸化物質が溜まってきて、紫外線を初めとするさまざまな光を受けて常に細胞にダメージを受けやすいと言われています。それらのダメージを軽減し長く眼を健康に保つためにルテインの力が注目されています。
私たち・犬たちはこのルテインを体内で新しく生成することはできないため、シニア期以降の犬の瞳の健康維持のために食事から補うことが推奨されています。
■βグルカン(パラミロン)
免疫系の健康維持に役立つ成分として知られるβグルカン。摂取のしやすさから、キノコの仲間などから取り入れている方も多いと思います。
ミドリムシの中にもβグルカンは含まれていて、それは区別のためにパラミロンと呼ばれています。
パラミロンは腸の免疫細胞を刺激して、その活性を高めると考えられています。パラミロンを継続的に摂取することによって、免疫系が一定以上の働きを保つそうです。
また、水溶性食物繊維でもあるのでパラミロン自体が腸内細菌のえさとなり、健康的な腸内環境の維持にも役立つといわれています。
■豊富な必須アミノ酸
動物でもあるミドリムシには、必須アミノ酸もバランスよく含まれています。
犬の必須アミノ酸は、バリン・ロイシン・イソロイシン・リジン・メチオニン・スレオニン・トリプトファン・フェニルアラニン・ヒスチジン・アルギニンです。
これらのアミノ酸がそれぞれしっかり含まれていますので、アミノ酸の供給源としてもミドリムシはぴったり。
小食の犬のための栄養補給として使ったり、アレルギーのためにドッグフードのタンパク源に制限がある場合の選択肢としての用途が考えられているようです。
■不飽和脂肪酸
ミドリムシにはさまざまな不飽和脂肪酸も含まれています。代表的存在でもあるEPAやDHAのほか、α-リノレン酸やアラキドン酸などの不飽和脂肪酸もミドリムシから摂取することが可能です。
実は、ミドリムシを始めとした藻類から不飽和脂肪酸を抽出する研究は現在盛んに進められています。
これまでは不飽和脂肪酸の供給源は魚や緑イ貝などの海洋資源が中心でしたが、環境の変化や乱獲の影響で漁獲量が減少しており、安定的な供給が難しくなる可能性が心配されています。
そこで解決策の一つとして、ミドリムシなどから抽出した不飽和脂肪酸を活用する方法が模索されているのです。
ミドリムシがドッグフードなどに使われる理由
・植物と動物両方の栄養を合わせ持っている
・独自の成分(パラミロン)は免疫系や腸内環境の維持に役立つ
・植物由来の成分であるクロロフィルは口臭や歯周病対策として期待されている
・不飽和脂肪酸やアミノ酸などの供給源として、環境問題などの理由から他の原材料の代用としての役割が期待されている
Pointミドリムシを主原料として使ったドッグフードはできるの?
犬の健康維持に役立つ成分が豊富で、タンパク質も含まれるミドリムシ。「それなら、肉や魚の代わりに主なタンパク源としてミドリムシを使ったドッグフードができないかな?」と思ったのですが、調査したところ実現は難しそうです。
さきほどミドリムシに含まれるβグルカン、パラミロンについてご紹介しましたが、この成分が関係します。
パラミロンは一定量を犬に摂取させることで腸内細菌のえさとなったり、腸の免疫細胞を刺激して働きをサポートするという嬉しい働きがあります。
ところが、肉や魚のように犬の栄養基準を満たせるよう、タンパク源としてミドリムシを使うとなるとその量はかなりのものとなります。犬の健康維持に役立つ量以上のミドリムシを摂取すると、大量の水溶性食物繊維を摂取することになり、ウンチがゆるくなり下痢を起こしやすくなるようです。
このことから、体を作るタンパク源としてドッグフードの主原料をミドリムシにすることは現実的ではない、というのが現時点での見解で、機能性成分として含有する程度にとどまっています。
おわりに
今回はドッグフードの原材料としてのミドリムシについてご紹介いたしました。名前だけ見ると真新しい印象を受けますが、理科の授業で観察を行った方も多い「あの」ミドリムシのことです。
植物と動物両方の特長を持つミドリムシに含まれる栄養もそれぞれの良い部分があります。ミドリムシを主原料としたドッグフードは難しいかもしれませんが、今後上手な活用方法が広まっていけば、より活用の場が広がっていきそうな原材料のひとつです。
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