- 特集
2024.03.07
異物誤飲を絶対防ぐ!初期症状・様々な治療法も心得て、犬の命を守ろう【獣医師に聞く】
犬の健康に気を遣っているけれど、さまざまな情報が飛び交う昨今、なにを信じていいかと混乱していませんか? 古かったり、信ぴょう性に欠けたりする情報が見られるのも事実。
"犬の病気の専門家"の見解や意見も割れることがしばしばありますが、信頼のおける有益な情報だけを集めたい飼い主さんのアンテナにビビッと来そうなトピックの最新情報を、獣医師への取材で集めてお届けします。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報異物誤飲
おもちゃや日用品など、飲み込むと犬の体に危険をおよぼす恐れのあるものとは? 誤飲して健康被害が生じた時の初期症状は? もし異物誤飲をしてしまったら、どのように対処したら良い?
獣医師から、正しい知識を得て万が一に備えましょう。POCHI編集部の筆者の犬が腸閉塞を起こして手術をした体験談をまじえて解説します。異物誤飲は命にかかわるケースもあるので、決して軽視できません。
すべてのライフステージで誤飲には注意が必要
好奇心が旺盛な子犬期だけでなく、エネルギーが高い成犬期、認知能力が衰えてきた高齢期など、すべてのライフステージにおいて異物誤飲は要注意。
たとえば、雨で散歩に行けないストレスを発散しようと、ゴミ箱や飼い主さんのカバンからおもしろそうな物を探したり、たまたま床に落ちていた物を飲み込んだりコード類をかじったり……。
ボタン電池が胃酸で通電して胃に穴が空く、糸状の物が腸に絡まって腸閉塞を起こすなど、異物誤飲が原因で命の危機に瀕するケースも少なくありません。
犬の誤飲の対処と予防法は、しっかり心得ておきたいものです。
筆者が約16年間ともに暮らしたノーリッチ・テリアのリンリンは、異物誤飲で複数回の外科手術を経験しています。
最初の手術はリンリンが5歳の時。引っ越し直後に設置したキッチンのタオル掛けの吸盤が、気づかぬうちに床に落ちていたようで、それをリンリンが飲み込んでいたのです。引っ越しから数ヵ月後のある早朝、リンリンは度重なる嘔吐と下痢をしました。部屋の隅でブルブルと震えているリンリンを撫でながら、不安な気持ちで診察開始時刻を待ったのを思い出します。
動物病院ではレントゲン検査をしましたが、異物は確認できず。プラスチックや布や木製の物は、X線写真にはよく写らないからです。ただ、超音波検査(エコー検査)で腸の動きがほとんどないことがわかり、また、バリウム造影検査のX線写真で腸内に吸盤らしきものが確認できたので、命にかかわる腸閉塞の疑いが高いとのことで緊急手術になり、一命を取り留めました。
異物誤飲が疑われたら動物病院ですること
「異物誤飲で動物病院行くと、すぐに開腹手術になると思うかもしれません。けれども、吐き出せる異物ならばまずは催吐剤を使用し、それがむずかしいと判断したら内視鏡手術で口から出すことを通常は試みます。食道を通過しない異物は、胃切開手術で取り出します。
腸閉塞がある場合は命の危険性が高いので、ただちに開腹手術を行うことになるでしょう」
東京都内の動物病院での臨床経験が豊富な箱崎加奈子獣医師は、このように語ります。
リンリンも、催吐剤で人間用のガムを吐かせたことがあります。
筆者が帰宅したら家電のベルが鳴っていたので、急いでカバンを床に置いて受話器を取って通話をしていたら、ミントの香りが……。なんと、リンリンが、カバンに入っていた縦長のガムのパッケージをくわえているではありませんか! 「あっ!」と大声を出した瞬間、リンリンは10粒入りパッケージをゴクリと飲み込んでしまいました。犬にはキシリトールが中毒になると知っていたので、クロロフィル入りのガムを買うようにしていたのは不幸中の幸いでしたが、そのまま動物病院に急行したのは言うまでもありません。
催吐剤を静脈注射して数分後、リンリンは無事にガムを吐き出しました。
スーっとさわやかなミントの香りに包まれた診察室で「胃から小腸へは、通常は食べたものが60~90分で移動してしまうから、すぐに駆けつけてくれてよかったですよ」と、獣医師。事情を説明したのち、診察の順番を早めてもらったことにも感謝しています。
異物誤飲かなと思ったら、すぐ病院へ!
リンリンの胃から取り出された異物で忘れられないのが、毛玉にあらゆる物が絡まったピンポン玉サイズの物です。
リンリンが朝方の空腹時に胃液を吐く日が続いていたある日、食欲の低下にくわえて、嘔吐や下痢を1時間に何度も繰り返したので動物病院へ。
レントゲン検査では、胃壁に針金のような物が刺さっているのが確認できました。どうも、家族が酔って帰宅した深夜に使用して、リビングのローテーブルに置いたままにした歯間ブラシのようです。
内視鏡で取り出すという獣医師の判断により、その日のうちに全身麻酔で内視鏡手術が開始されました。ところが、内視鏡で見たところ歯間ブラシは毛玉ボール内に絡まっていて、その毛玉ボールは食道を通らないサイズだったため急遽、開腹手術に。取り出された物は、筆者の毛やリンリンの毛に、子ども用おもちゃや犬用ラテックスボールの破片などが複雑に絡まった状態でした。
その毛玉ボールが胃の出口である幽門をふさいだようで、こんなこともあるのかと本当に驚きました。
「胃で消化できない異物が、何ヵ月間も何年間も胃内に残ることもめずらしくありません。異物があると、空腹時に吐き気を感じやすくなるものです。胃内異物が原因で、食欲が落ちる犬もいます。
なお、下痢や嘔吐を短時間のうちに何度も繰り返すと、胃内異物の有無にかかわらず脱水症状になるので、すぐに動物病院に行ってくださいね。
異物誤飲で生じる症状を、飼い主さんは見逃さないことが重要です」(箱崎獣医師)
異物誤飲の必須の予防法5選
異物誤飲を予防するため、対策を万全にしましょう。
箱崎獣医師に、日常生活で異物誤飲をさせないための工夫ポイントをうかがいました。
予防法1フタ付きのゴミ箱を使う
退屈したり空腹になったりして、ゴミ箱をあさる可能性があります。ゴミ箱は、フタが付いたタイプを利用するのがベスト。
ちなみにリンリンは、ペダルを押してゴミ箱のフタを開け、中にあったムール貝の殻を食べて血便と下痢が続き(手術にはなりませんでしたが)、バリウム造影検査と治療のため半日入院したことがあります。
フタが簡単に開かないゴミ箱を選ぶのもポイントです。
予防法2クレートやサークルを活用
飼い主さんがそばにいない時に、誤飲事故は発生しやすいようです。留守番中や入浴中などは、犬にクレートやサークル内にいてもらえば誤飲を未然に防げます。
筆者は、子どもが幼いころに人間用のおもちゃをリンリンが口にする危険性があったため、子どもがひとり遊びをする際はベビーサークルに入ってもらいました。子どもはおもちゃがあればご機嫌ですが、犬たちはサークル内で過ごす時間が子どもの誕生後に増えるとかわいそうだと思ったからです。
予防法3室内ゲートを設置する
簡易ゲートを、誤飲事故が起こりやすい場所に設置するのも対策のひとつ。
たとえば、犬が食べると中毒を起こすものや総菜が入ったパックなどを、キッチンでの作業中に飼い主さんがうっかり落とすこともあるでしょう。落下物の着地と同時に、犬が誤飲してしまうケースも少なくありません。それを防ぐために、カウンターキッチンに入ってきがちな犬との生活では、室内ゲートを活用しましょう。
予防法4合図でくわえた物を放させる
犬がくわえた物を飼い主さんが口から取ろうとすると、犬はそれを守ろうと余計に誤飲しやすくなります。誤飲癖がある子には、「オフ」「アウト」などの合図で、くわえたものを放すトレーニングをしておくのがおすすめです。
なお、「オフ」ができない場合、口に異物をくわえているのを目撃したらすぐに、犬の近くにとっておきのおやつなどをいくつも放り投げてください。それを食べるために犬が異物を放したら、すぐに回収を。
予防法5退屈しない生活を心がける
異物誤飲は癖のような一面もあるので、退屈さを軽減できたら必ず減らせるとも限りませんが、退屈しのぎによる異物あさりと誤飲を防ぐための対策は講じておきたいものです。
毎日の散歩はもちろん、室内でも知育トイを活用したり、飼い主さんとのコミュニケーションにもなるトレーニングをしたりと、うちの子に充実した毎日を過ごさせてあげましょう。
いずれにしても、異物誤飲に気づいたら、様子を見ることなく早急に動物病院へ。その異物が便で出そうかの判断を獣医師に仰げれば、まずは安心できます。また、処置が早ければ早いほど、催吐剤を使用できて外科手術を回避できる確率も高くなります。
正しい知識で、うちの子の健康と命を守れるように心がけてくださいね。
ライター:臼井京音
■ 取材協力:箱崎加奈子 獣医師
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