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2024.03.18
【#サイエンス犬学】遺伝子検査でミックス保護犬の犬種構成や健康情報を知りたい! 驚きの体験談
私たちの暮らしを支える科学技術や科学的な研究分野の進展が、ドッグライフにも小さな変化から大きな変化までをもたらす可能性は十分にあります。
そのような「最新科学」の情報から、犬と暮らす私たちも目が離せません。
今回のお役立ち情報遺伝子検査(DNA検査)
テリアミックスの中型犬の元保護犬を迎えた筆者が、遺伝子検査機関に依頼して得た、犬種や遺伝子的健康リスクに関する驚き&納得の結果を報告します。
テリアミックスの保護犬を迎えてみて
筆者は2023年のゴールデンウィークに、動物愛護団体から元保護犬を新しい家族として迎えました。推定5歳、体重およそ17kgのテリアミックスという紹介文に添えられた写真を見て、瞳孔が開いたのを思い出します。犬種にかかわらずどんな犬でも好きですが、ヨークシャー・テリアから始まり、現在は2代目のノーリッチ・テリアと暮らしている筆者は、立ち耳テリアのルックスが特に好みだからです。
先住の老犬ノーリッチ・テリアとの相性を確認するためのトライアル期間中、テリアマニアの筆者としては驚いたことがありました。
「ん? 他犬にも人にも攻撃性がなくて牙を剥くこともないし、どこを触っても怒らないし、頑固でもない。本当にテリアの血が入ってるの? 性格は、ラブラドールとかゴールデン・レトリーバーみたい。毛色もクリーム色だし、もしかして本当にラブラドールとかゴールデンの血が入っているのでは」と。
その穏やかな性格のおかげで、気が強いテリア気質満点の先住犬ともうまくやれたので、無事に“リリ”と名付けたその子を正式譲渡してもらえたのですが……。
身体的なハンディキャップの原因は?
リリは、四国の愛媛で野犬として保護されたとか。
リリを迎えた頃、筆者は、近畿地方や中国地方のペットショップの売れ残りやパピーミル(子犬繁殖場)の繁殖引退犬が、四国の山中に数多く捨てられているとの報道を目にしました。リリがもし、そうした犬の1頭だったりその子孫だとしたら、ラブラドールやゴールデンの血が入っていても不思議ではありません。
また、リリは後肢に少し麻痺があり、後足をときどき引きずって歩く“ナックリング”をすることがあります。
野犬時代に崖から落ちるなどして脊椎を損傷した後遺症かもしれませんが、リリの大きく先端が丸い立ち耳や足が少し短めの外貌から、もしウェルシュ・コーギーの血が入っていたら、変性性脊椎症(DM)に関連するかもしれないとも思いました。
筆者は、リリと生活しているうち、次第にそのルーツや遺伝病の発症リスクを知りたくなってきました。
そこで、アメリカの遺伝子検査機関Embarkで、リリの犬種構成や、遺伝子が関連する健康リスクなどを調べてもらうことにしたのです。
Embarkのサイトで注文してから2週間ほどで、検査キットが到着。さっそく、リリの唾液を採取して、国際郵便で送りました。結果が出るまで、ドキドキワクワクの約2週間です。
犬の遺伝子検査の結果に驚き!
EmbarkからEメールで送られてきた検査結果報告のリンクを開いて、筆者は「そ、そうなのー!」と、大声を上げずにはいられませんでした。
なによりも、リリのブリードが「100%日本・韓国の土着犬」であったこと。もっとも可能性が高い家系図も添付されていましたが、祖先を5代さかのぼっても、どの犬も「100%日本・韓国の土着犬」でした。
これは350を超える犬種や犬のタイプからの分析結果で、信頼に足るものです。
日本と韓国のビレッジドッグに関する詳細な解説も添えられていたので、インターネットやアプリの翻訳機能を使いながら「ふむふむ」と読み込みました。
ただ、リリが中毛でルックスがテリア風なことは、「一致するDNAの痕跡を持つ犬種のリスト」を見て納得。ヨークシャー・テリアとミニチュア・シュナウザーがリストアップされていたからです。
ちなみに、紀州犬、柴犬、日本スピッツ、プロット・ハウンドも同じリストに記載されていました。
また、結果報告が見られるEmbarkのサイトには、近い遺伝子を持つ検査実施済みの犬も見られます(※Embarkに任意でプロフィール登録した犬のみ。米国在住の犬が多いと思われます)。
ワクワクしながらクリックすると、そこにはリリと6.8%同じ遺伝子を持つ犬としてミニチュア・シュナウザーが出ていて、それより低い数値の犬、約30頭もすべてシュナウザーでした。
結論としては、レトリーバーやテリアのミックス犬ではなくびっくり、反面少し腑に落ちた結果だったと言えます。
もうひとつ納得したのが、オオカミと同じDNAを持つ度合い。ほとんどの犬の数値は1%以下ですが、リリは1.9%とハイスコアでした。
日本犬はプリミティブタイプと呼ばれ、犬のなかではオオカミにもっとも近いDNAを持ちますが、リリが日本の土着犬ならば、この数値にうなずけます。
リリとの日々ではまったく、日本犬の性質を感じませんが……。
“遺伝的健康リスク”の検査結果で得たもの
リリの遺伝子検査をEmbarkに依頼しようと決めた理由が、Embarkでは遺伝子が関係する256の健康リスクに関して調べられるからです。
日本でも、犬種ごとにかかりやすい遺伝性疾患に関しては検査機関などに検査を依頼することはできますが、リリは雑種なのでそれができません。
検査の結果、「遺伝的健康リスクのうち、知っておくべき2つの結果が出ました」とのこと。
ハイリスクで出たのが、ハンセンⅠ型椎間板ヘルニアです。椎間板ヘルニアは2つに分類され、ハンセンⅠ型は若齢で、ハンセンⅡ型は主にはシニア期以降に発症するのが大きな違いです。
推定5歳のリリは、四国の動物愛護センターから愛護団体に移った際にすでに歩行のふらつきやナックリングが見られたとか。野犬時代、あるいはそれ以前にすでにハンセンⅠ型椎間板ヘルニアを発症していたのでしょう。
なお、心配要素であったリリの変性性脊椎症(DM)の遺伝子検査結果はクリア(発症リスクなし)でした。
今後は、獣医師に相談してリリの健康を守っていけることが、この遺伝子検査結果からの大きな収穫でした。
近親交配で生まれた可能性大!?
リリが保護されるまでどうしていたか、筆者が大いに想像をめぐらせることになった検査結果もありました。それは、近交度の割合。リリは、近交度が37%と、優良ブリーダーの交配計画ではありえないほど高い数値なのです。
もしかして、リリは避妊去勢をしないで多頭飼育していた家庭で近親交配が重なった末に誕生したのかな? そして多頭飼育崩壊につながって、野犬になってしまったのかな? あるいは、親きょうだいが多い同じ群れで、生まれた子なのかな? と、思いをめぐらしました。
ただ、人をまったく怖がらないので、野犬として生まれたのち、捕獲されるまでずっと人と接してこなかったとは考えられません。
近交度が高ければ高いほど、あらゆる病気にかかるリスクが高いという研究結果もあるので、この点も注意して見ていきたいと思います。
今回、犬の口の中を綿棒でこすって唾液を採取するという簡単な方法で行った遺伝子検査で、これだけの情報を得られて驚くと同時に、この結果は今後のうちの子との生活に活かしていけると実感しています。
遺伝子に関しても興味がわいた筆者は、今後も遺伝子のことを取材して記事化したいと思っていますので、そちらもお楽しみに。
文・写真:臼井京音
参考:
*1 Embarkホームページ https://embarkvet.com