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2024.04.22
【#海外の犬たち】インドの犬事情が興味深い!インドの動物愛護施設もご紹介
今回のお役立ち情報インドの犬事情
インド最大の都市ムンバイの犬たちの暮らしぶりは、日本とは違う部分も共通する部分もあり、なかなか興味深いもの。家族の一員である犬から、路上の地域犬、そしてムンバイの動物愛護施設の犬まで、あらゆる角度からインドの犬事情を紹介します。
野良犬? 地域犬? 路上を闊歩する犬たち
「どこに行っても、犬がいるんだなぁ。街歩きをしていて犬と出会う確率は、日本より高くて、大型犬が多い」
これが、約1840万人が住むインド最大の都市ムンバイを、2024年3月に訪れた筆者がまず感じたこと。
街には、野良犬だけれども近隣の人々から食べ物をもらっていて首輪もしている“地域犬”が、そこかしこにいます。
世界5大宗教のひとつで、インドで8億人以上が信仰しているヒンズー教では、すべての生き物を尊重するべきと説いていて、不殺生を重んじています。
犬は死神“マヤライ”の護衛とされるものなど、犬が登場するヒンズー教の神話も少なくありません。
それらを意識しているかはわかりませんが、筆者がムンバイで出会った地域犬たちは、飢えてやせ細っていたりせず、人を見てもおびえる様子はなくおおらかに見えました。
朝や夕方の家庭犬の散歩時には、なじみの“犬友”にあいさつをする地域犬の姿も。
とはいえ、インドは狂犬病による死者数が毎年約2万人に上る国。地域犬は当然のことながら狂犬病の予防接種をしていないので、人々も家庭犬も、ある程度の距離を保ちながら地域犬たちと接しています。
リードでつながれて散歩する家庭犬と、自由気ままに町内や海辺の遊歩道を闊歩する地域犬。同じ犬でも、その暮らしぶりには大きな差があります。
どちらが幸せなのかな? などと筆者も考えましたが、多くを知らない人間側からの視点では簡単に答えが出せそうにありません。
シーズーとレトリーバーがインドの人気犬種?
約1週間のムンバイ滞在中、筆者が見かけた犬種をすべて挙げます。
ゴールデン・レトリーバー、ラブドール・レトリーバー、シーズー、ビーグル、サモエド、シベリアン・ハスキー、ミニチュア・ダックスフンド、スタンダード・ダックスフンド、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、マルチーズ、フレンチ・ブルドッグ、ロットワイラー、チワワ、チャウチャウ、パグ、ヨークシャー・テリア、ラサ・アプソ、グレート・デン、ドーベルマン、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ボクサー、コリー。
なかでも、レトリーバーとハスキーとシーズーは、遭遇率が高めでした。
日本で人気のトイ・プードルとミニチュア・シュナウザーは、見かけることはありませんでした。
小型犬はあまり散歩をさせていない可能性もありますが、インドでは日本より大型犬が多いようです。
ちなみに、五つ星ホテル内で宝石店を営む店主もシーズー2頭と暮らしています。
たまたま犬談義に花を咲かせると……、
「家族中がこの子たちを溺愛しているよ。
このうちの1頭は、絶対に先代のラサ・アプソの生まれ変わりだと思っているんだ。だって、同じように階段の9段目で立ち止まってそこで休んだりするし、ほら、この写真を見てもわかるとおり、まるで同じような左に足を投げ出す横座りをするんだから!」とのこと。
お気に入りのフカフカなドッグベッドの写真を見ても、国は違えど犬を家族のようにかわいがる人の心は同じだなぁ~、としみじみ感じました。
ムンバイで人気の散歩コースは、海辺
ムンバイは常夏の気候で、人口も過密。人々はその喧噪から逃れたくなると、ビーチや海沿いの遊歩道を訪れます。当然、朝夕の海辺は犬連れでもにぎわいます。
よく見ると、犬と散歩しているのは飼い主だけではありません。中流階級以上のインド人は、役割ごとにサーバント(使用人)を雇うケースが多く、犬の散歩を担当するサーバントもいるようです。犬を連れているサーバントの多くは、“犬友”が集うコーナーで軽く犬同士にあいさつをさせたあと、スタスタと足早に通り過ぎている印象。
対して、飼い主に連れられてきた犬たちは、おやつをもらったり遊んだり……。一カ所に長時間滞在して、楽しく夕涼みしている様子です。
インド映画のボリウッドスターが暮らす大邸宅が並び、高級ホテルもあるジュフビーチを散歩する犬も少なくありません。
「ここは夕陽スポットとしても人気があるから、夕方は人がたくさん。朝の散歩がいいかも」と、ムンバイ在住の日本人Yさん。
海辺には、飼い主が原付バイクの足元に犬を載せてやってきたり、飼い主と犬とが運転手の車で訪れたりと、徒歩圏外からも犬が集まります。
バンドラ・ウエスト地区の海辺の遊歩道では、朝夕は地域犬にごはんをあげる、日本で言うところの“えさやりおじさん・おばさん”も姿を現し、犬たちが大集合といった感がありました。
国の事情を反映する、ムンバイの動物愛護施設
ムンバイの路上で、生まれてからそのまま生涯をまっとうする地域犬ばかりではありません。
アニマルシェルターに保護され、新しい家族のもとで暮らす犬もいます。
「ムンバイに2つのシェルターを持ち、それぞれ約100頭の犬と、約20頭の犬猫を保護しています。みんな、野良犬です」
このように語りながら筆者に小規模なほうの施設を案内してくれたのは、YODA(Youth Organization in Defense of Animals)の広報担当者。
こちらの施設に入ってすぐ、後肢のないロッキーとほか2頭の、とても人懐っこい犬たちが出迎えてくれました。
「ロッキーは、電車にひかれて後肢を失ったの。2年ほどこの施設にいるけど、性格が良いしきっと新しい家庭とのご縁があると思うわ」とのこと。
筆者が訪れた施設には、2つ動物病院が併設されています。ひとつは避妊去勢手術用で、もうひとつは一般の病気治療用。
「今日も緊急で治療が必要な2頭の野良犬が運び込まれて来ます。
緊急用のドッグケージを2つは確保しておかなければならないので、なかなか譲渡先が決まらない犬は避妊去勢と狂犬病予防接種などをしたあとに、また保護した地域の路上に戻すこともあります」とも。
日本では猫のみに行われているTNR活動の“犬版”が、インドでは保護スペースが不足している事情から実施されているようです。
ムンバイでリードに引かれて飼い主と歩く犬たちの中には、純血種ではなく、YODAで出会ったような土着の“インド犬”も多く見られました。
「寄付やオリジナルグッズの収益、犬の世話をしてくれたりトレーニングしてくれたりする多数のボランティア、そして保護犬を迎えてくれる人々の愛情によって、YODAの活動は支えられています」
保護犬を撫でながらこのように語るYODAスタッフの言葉を聞きながら、筆者は次のように感じていました。
「犬を愛する人の心に国境はない。世界中すべての犬が、しあわせになりますように」と。
文・写真:臼井京音