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2024.05.29
【#うちの犬とチャレンジ】ノーズワークで犬がイキイキ!レッスンへの潜入取材で魅力を実感
犬たちの個性や犬種の特性による行動は、ワクワクだけでなく社会貢献につながることがあるかもしれません。もう、お困り行動だなんて言わせません!
個性を受け入れて、前向きにうちの子と向き合う時間につながる、そんな楽しい"チャレンジ"を紹介します。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報ノーズワーク
嗅覚が使えて自力で歩ける犬であれば、身体が不自由であったり老犬であったりしても楽しめるドッグスポーツとして大注目の、ノーズワーク。
その人気の秘密と魅力を、トレーナーの松下裕子さんと、ノーズワークのレッスンを主催して参加しているアキホリスティック動物病院の菅野晶子獣医師に教えてもらいます!
ノーズワークは犬が主体の競技
ノーズワークは、その名のとおり嗅覚を使ったドッグスポーツです。
そのルーツは、アニマルシェルター(動物保護施設)にいる犬たちの、気晴らしや楽しみになるようにとアメリカで始まったトレーニングにあります。
「ですから、怖がりな子も、よく吠える子も、盲目であったり車いすであったりと身体が不自由な子も、そして老犬も、ほぼどんな犬でも楽しめるんですよ。
空港で働く探知犬などは、嗅覚を活かして作業をしていますよね。それを、家庭犬向けに落とし込んで競技にしたのがノーズワークだとイメージすればわかりやすいでしょう」と、ドッグトレーナーの松下裕子さん(ドッグトラスト代表)。
2009年に初の競技会が開催されてから、今や、全米で大人気のノーズワーク。主催団体によって多少ルールなどは異なりますが、フードやアロマの香りを、犬が嗅覚で探します。
「私が主催するFanノーズワークのトレーニングクラスの最大の特徴は、犬が主体であることですね。人間が出した指示に犬を従わせて行動させるのではなく、犬が嗅覚から導き出して示すサインを、人間が集中して読み取るのです。飼い主さんは決して、犬のリードを引いたり指示を出したりしません。犬の自主性を重んじて、犬をよく観察することが何よりも大切です」と、松下さんは語ります。
ノーズワークに取り組むと、獲物や食べ物を探すという本能的な欲求を満たせるので、犬たちは充足感が得られます。
飼い主さんは、うちの子が発するボディランゲージをキャッチできるようになることが、ノーズワークの楽しみと言えるでしょう。
15歳の老犬がドヤ顔に?!レッスンに潜入
「最初は、ウメが発するナチュラルアラート(自然な合図)が、全然わかりませんでした。松下先生には『ハイド(においのもと)を探し当てたらヘッドターンをしますね』と言われたけど、『え?』っていう感じで(笑)。
けれど、今ではウメの合図もわかるようになってきましたし、毎回のレッスンが楽しみです」
そう語るのは、自らが定期的に主催するFanノーズワークのレッスンに参加している、菅野晶子獣医師(アキホリスティック動物病院)。
POCHI取材班が訪れた2024年1月のレッスンでも、15歳のウメちゃんは「スンスンスンッ」と大きな鼻息を立てながら、ハイドが隠された段ボール箱などがある室内を動き回り、ノーズワークに取り組んでいました。
途中「アラート!」と菅野獣医師が声を上げると、松下さんから「正解!」の返答。するとすぐに「ウメー、すごいね」と、菅野獣医師は隠してあったのと同じトリーツを持ってウメちゃんのもとに行き、手からウメちゃんにあげます。
その時のウメちゃんの表情は、誇らしげで満足そう。
「ノーズワークのレッスンがあった日は、よく寝てくれるんですよ。
脳トレにも、ノーズワークはとてもいいですね。ウメのような老犬の場合は、認知症予防にも役立つはずです」と、菅野獣医師はレッスン後のウメちゃんを撫でながら微笑みます。
自宅で動かない子も動く!
菅野獣医師が動物病院内でノーズワークの講習会を始めたのには、2つの理由があります。
「ひとつは、動物病院に来ることを好きになってほしいから。
もうひとつは、病気やハンデがあっても楽しめることを提供したかったからです。高齢で病気だった松下先生のワンちゃんが、フードを探させるとよく動くのを見て驚くと同時にとても感動したんですよね。患者さんの飼い主だった松下先生に『すごい! うちでぜひセミナーをやってください』と、すぐにお願いしました(笑)」
- 「ムムッ、匂いは後方かもっ!」(byウメちゃん)
- ハイシニア犬でも、くるっと機敏にターン
- 「あった! この段ボール箱の中よ」(byウメちゃん)
2018年春の初回レッスンは、目もあまり見えない椎間板ヘルニアの17歳のミニチュア・ダックスフンドや、中齢のウメちゃんなど3頭。
「『もう病気や高齢で動けないから』と言っていた飼い主さんも、ノーズワークに夢中になりながらよく動いているワンちゃんを見て、『こんなに動けるなんて』とうれしそうでした。それを聞いた私も、開催してよかったと胸が熱くなりましたね。
犬の運動は、散歩だけではありません。室内で頭も身体も使って動けば、充足感を得られて安眠できます。
また、動かないのに食べると太ってしまいますが、ノーズワークで運動をすれば体重管理にも役立ちます」(菅野獣医師)
月に1回のペースで約6年間のキャリアを積んだ、ウメちゃんと菅野獣医師。
「ノーズワークをとおして、より、ウメの細かいボディランゲージを理解できるようになりました。チームワークも、ウメとの信頼関係も深まったと感じています」
“犬が犬に戻る時間を作る”ノーズワーク
取材日は、室内での“インテリア・サーチ”のレッスンでしたが、ノーズワークには屋外での“エクステリア・サーチ”や、車両の外側のハイドを探す“ヴィークル・サーチ”もあります。
「もっともハイレベルなのが、車のにおいと混ざってしまうヴィークル・サーチですね。
風ににおいが乗って流れてくる屋外より、無風のインテリア・サーチのほうがむずかしい場合もあって、そこもおもしろいところだと思います」と、松下さん。
探させるものは、においが強めな特定のフードからスタートして、レベルアップしてきたらアロマとフードを“ペアリング”。最終的には、アロマオイルを付けた綿棒入りの専用ケースを探せるところを目指します。
「フードサーチであれば、2週間に1回のペースで1年間練習を積めば、私が主催する競技会のフードサーチの簡単な部門に出られるレベルになるでしょう」(松下さん)
最初はハイドの場所を飼い主さんは知っている状態で、犬のボディランゲージを読み取る練習からスタート。ベテランクラスのレッスンでは、飼い主さんにも隠し場所を知らされません。
犬への観察眼が着実に養われるため、また、トレーナーの適切な判断でレベルを上げるほうが、犬の鼻の使い方が上達しやすく意欲も高まるため、競技会を目指していなくてもレッスンに通うのがおすすめです。
「犬が犬に戻る時間を作れるのが、ノーズワークだと感じています」と、松下さんは言います。
犬がほかの動物よりすぐれている嗅覚を使って楽しんでいる姿を見るのは、飼い主さんの喜びにもなるでしょう。
魅力満点のノーズワークを、うちの子と始めてみてはいかがですか?
文・写真:臼井京音
■ 松下裕子さん
取材協力
*1 アキホリスティック動物病院 https://www.akiholisticvet.com/