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2021.03.30

Dog Snapshot R 令和の犬景 Vol.1

Dog Snapshot R 令和の犬景 Vol.1

(写真・文 内村コースケ)


犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

厳冬期から春へ

今年の冬は寒かった。ラニーニャ現象の影響云々で久しぶりに平年より平均気温が低かったし、日本海側を中心に記録的な大雪もあった。とはいえ、気温そのものは全国的に「平年並み」をわずかに下回った程度だ。それ以上に、ともかく体感的に寒かった。コロナ禍によって生活に制約がかかったことによる精神的な寒さ。そんな「厳冬期」は、まだ続いている。


我が家の近くにある長野県の白樺湖は、今年は冬季間を通じて氷結している。マイナス10度前後の日が続いたが、2月に入って八ヶ岳と霧ヶ峰が見下ろす冬景色から、春の匂いがかすかに感じられるようになった。社会的な厳冬期も、永遠に続くわけではない。反対に、いったん雪解けしても、いずれまた必ず厳冬期がやってくる。

社会のサイクルは、自然のサイクルの一部である。犬は、自然のサイクルのバランスが少々崩れたからといって、いちいちパニックに陥らない。アイメイト(盲導犬)として仕事をしてきて10歳でうちに来た我が家のラブラドール・レトリーバーは、おそらくこの冬初めて厳しい冬を経験した。それでも、現役時代と変わらず、マジメに前を向いて歩き続けた。

そして、3月も半ばを過ぎ、早い地方からは桜満開の報告が聞こえてきた。犬は、人間と同じように花見の風情を味わうことはない。でも、梅の香りに厳冬期の終わりを感じ取り、目に映る桜に温かさを思い出し、足元に桜の花びらが舞う頃には冬のことなど完全に忘れることだろう。どんな時代であっても、「始まりの季節」には、希望がある。

■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞で記者を経験後、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争の撮影などに従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)会員。