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2023.06.01
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.27 Dog Snapshot 秋〜春編
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
軽トラのメロンちゃん
今回は、Vol.22<Dog Snapshot 秋冬編>に続いて、昨秋からこの春にかけて出会った「犬がいる情景」=「Dog Snapshot」をお届けします。
農村地帯では、農作業のお供で軽トラの荷台に乗った日本犬をしばしば目にする。秋の収穫期に北アルプスのふもとで出会った「メロン」ちゃん(8歳)もそのひとり。日没迫る田園風景の中、帰り支度をしていた飼い主の男性に話しかけると、「このあいだ子宮蓄膿症の手術をしたばかりなんだ」とのこと。僕が以前飼っていたメスのフレンチ・ブルドッグも子宮蓄膿症の手術をしたので、この病気が時に命に関わることは身をもって知っている。それだけに、とても元気そうなメロンちゃんの姿にひときわ心が温かくなった。黙々と農作業をする人は近寄りがたいオーラをまとっていることが多いが、この飼い主さんは、メロンちゃんの話になると途端に柔和な表情になったのが印象的だった。
冬の街角、高原の雪景色
こちらは、出張先の関東のある下町の、スーパーの前で出会った犬。決して繋がれて放っておかれていたわけではなく、飼い主さんが「おとなしく待っているのよ」と店に入った後も、顔なじみの店員さんがさりげなく見守っていた。その店員さんに聞くと、この子は保護犬で、飼い主さんといつも一緒。とても大事にされているとのこと。「店先に繋がれた犬」という表面的な光景の裏に、古き良き地域の優しい視線があった。
自宅がある軽井沢エリアに帰ると、雪化粧した世界が広がっていた。我が家の白いラブラドール・レトリーバーもそうだけど、とりわけ「雪景色が似合う犬」がいる。西軽井沢の御影用水で出会った小柄なシベリアン・ハスキーや真っ白な柴も、雪が舞う散歩道がとても似合っていた。
命輝くゴールデンウィーク景
ゴールデンウィークを迎える頃になると、ここ信州の山間部にもキラキラとした新緑の季節がやってくる。今年のGWは、この連載を始めた頃に本格化した新型コロナウイルスのパンデミックもようやく一段落の様相で、各地の観光地やイベント会場の賑わいが復活した。地元で開催された熱気球の大会もコロナ前以上の人出。各地に飾られた鯉のぼりも、数年ぶりの自由を謳歌するように元気に翻っていた。そして、そんな5月の空のもとには、いつもと変わらず人に寄り添う犬たちの姿があった。
今年の「春景」でもう一つ、個人的に印象的だったのは、菜の花の黄色いじゅうたんを2度楽しめたことだ。まず、3月に関東の平野部で、河川敷一面の黄色い世界を満喫。その2ヶ月後には、自宅にほど近い浅間山の山麓の広大な菜の花畑を初めて訪れた。四季があるだけでも世界では貴重なのに、それを地域差で何度も楽しめる日本は、本当に恵まれていると思う。
また、今年のGWには、同じ長野県の霧ヶ峰高原で山火事があった。火の手が上がった5月4日、僕はたまたま被災地のすぐ近くで過ごしていて、一晩避難を余儀なくされた。観光道路のビーナスラインのまっただ中の草原が翌朝にかけて広範囲に渡って真っ黒に焼けたのだが、幸いけが人はなかった。
約2週間後に火元の「ガボッチョ山」付近の草原を訪れると、早くも緑の下草が生え始め、自然が再生しようとしていた。観光客も戻っていて、そこで出会ったのが下の写真のウェルシュ・コーギー。その表情豊かな元気な姿が、たくましく再生する山の光景と重なって見えた。
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。