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2019.02.20
【selfishな歴史犬聞録 】季節を表す言葉、"獺祭(だっさい)"っていつ頃?どんな由来があるの?
犬たちと一緒に季節を楽しむ。それはお出かけだったり、食べ物だったり。特に日本では、祝祭日にも組み込まれている、二十四節気という古来からの季節の数え方があります。これは、現在の暦の基礎となっている1太陽年(要するに365日)を24等分し、その分割点となる日に名前を付けたもの。そこから更に、5日を一つの単位として72に分類した季節の暦「七十二候」は、今ではちょっぴり、マイナーな存在になってしまいました。とはいっても、この七十二候は、昔からその時期・季節の細やかな変化を表す言葉として使用されていたもの。七十二個もの種類がある候からは、日本人がどれほど季節の移り変わりを楽しんでいたかが伺えます。
この七十二候の中に「獺祭魚(だっさいぎょ)」という候があります。この候は、二月の中旬の後半頃を指すものですが、この候には、ちょっと可愛らしい典故があることは、皆さまご存知でしょうか。
獺祭魚(だっさいぎょ)という言葉の由来
この候の名前には、獺(たつ)という漢字が含まれています。この漢字の訓読みは、カワウソ。近年はコンパニオンアニマルとしても人気が高い、あのカワウソなのです。現在では、カワウソといえばコツメカワウソが真っ先にイメージされることが多いですが、日本に昔から暮らしていたニホンカワウソも、2012年に絶滅が発表されてからもなお、目撃情報が相次ぐなど、今でも日本人がなにかと「気にかけてしまう」存在として知られています。
改めて、この獺祭魚を漢文として読んでみると、
「獺、魚を祭る」
となります。カワウソがお魚をお祭りする、とは一体どういうことなのでしょうか。
その答えは、カワウソの生態にあります。カワウソはもともと、川沿いに狩りや暮らしの簡易的な拠点となる横穴や茂みなどを、複数持つという習性があります。そして、その縄張りを示すために、目立つ位置に獲物を置いたり、排泄をしたりすることがあるのだそうです。
そして、さらに季節の情景も加わります。七十二候の更に大きな季節の区分である、二十四節気では、この時期は雨水(うすい)と呼ばれ、気温が上がり雪やみぞれではなく雨が降るようになり、春へと着々と季節が進む節気とされています。暖かくなり始めたことで、川を覆っていた氷なども溶け、魚たちが活発に活動を始めるのにあわせて、カワウソたちも狩りを再開します。カワウソたちは、もちろん狩りで得た獲物(お魚)を川べりに並べ、今年もこの場所は自分の縄張りだと示すのです。
この二つの情景を合わせて、春の到来を祝うために、可愛らしいカワウソたちがお祭りの準備として、魚を一生懸命捕まえては川辺に並べているように見えたのでしょうね。
そう考えると、ちょっぴり川辺のカワウソを探してみたくなってしまいます。
獺祭の豆知識。別の意味でも使われる故事成語?
もともと、獺祭(だっさい)という言葉の初出は、なんと秦~漢という中国古代の初期の王朝の期間に編纂された「礼記」だといわれています。礼記は、皇帝による政治制度から卜占(占い)、人々の倫理観に至るまで、さまざまな当時の議論の様子や知恵が詰め込まれた書物。当時の中国では、暦は天子(皇帝)による支配と深い関係があるとされていたため、この書物の中に「暦」や「季節」と繋がる獺祭(だっさい)に関する記述も含まれていたのでしょう。
実は、この獺祭(だっさい)という言葉は、時代が下ると節気・候として意外にも使用されるようにもなりました。それは、「さまざまな種類の本や書物を広げてあれこれ思索したりしている様子」。
これは日本の王朝と中国が深い関係を持つようになる、唐代末期(9~10世紀頃)に活躍した詩人・李商隠が、作品を作る際に自分の手の届く場所にさまざまな書物を広げて、故事を調べながら作詩をした様子に由来するものです。
彼は自ら、獺祭魚・獺祭と名乗るほど、この言葉を気に入っていたのだそうですよ。
獺祭(だっさい)の由来を知ると、犬たちと一緒に「春のお魚」を楽しみたくなってきますね。
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POCHI スタッフ OKAPY
歴史と犬猫を愛するスタッフ。幼い頃は秋田犬と暮らす。今は猫と同居中。
学生時代の専攻は日本古代史における伝染病のほか、民俗史や習俗など。
でも生涯を通じて一番好きな題材は三国志・三国時代。
好きな犬のタイプはスピッツタイプ。アラスカンマラミュートやハスキー、サモエド、秋田犬など。大型犬と触れ合うと漏れなくテンションが上がります。