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2020.03.11
フィトセラピストが贈る、犬と暮らしのハーブ便り『リンデン』
【この特集の資料提供】Urara Herb Design Lab. フィトセラピスト 堂山うらら氏
*1 現在、ホリステックケアアドバイザーとして人と犬へのフィトセラピーを中心としたカウンセリングや、人と犬のクオリティ・オブ・ライフに役立ち、犬と一緒に楽しめるフィトセラピー講座、ハーブ講座を行っている。
時折、日差しに暖かさが感じられ、つぼみも膨らみはじめています。 そろそろ春の足音が聞こえてきてくる頃ですね。ぽかぽか、暖かな陽だまりにいると犬と一緒にウトウトしてしまいそうになります。
実は、これから春にむかってますます犬の皮膚が乾燥しやすくなることはご存知でしたか?
気温の上昇、紫外線の増加と強い春風は、皮膚の乾燥に拍車をかけます。
乾燥が続くと、肌の保湿機能や角質層のバリア機能が低下し、 肌の潤い成分である水分を奪って角質がはがれやすくなるため、バリア機能にも影響が出やすくアレルギー反応を起こしやすくなるようです。
出来るだけ早いうちに皮膚の乾燥ケアを心がけ、皮膚のバリア機能を高めて皮膚免疫をアップさせておきたいですね。
そこで、今月ご紹介するハーブは、本格的な春を迎える前に皮膚のコンディションを整えるためにも役立つ「リンデン」です。
春のはじめのオススメハーブ「リンデン」
●リンデン
学名:Tilia cordata / Tilla europase
科名:シナノキ科
別名:ライムフラワー・ライムブロッサム・ティユール
和名:セイヨウシナノキ・西洋ボダイジュ
使用部位:花部、葉部(苞葉)
有効成分:
フラボノイド配糖体(ルチン、ヒペロシド、ティリロシド)、粘液質(アラビノガラクタンなど)、タンニン、フェノール酸(カフェ酸、クロロゲン酸)、フェルネソール(精油成分)など
リンデンの歴史
シューベルトの曲「リンデンバウム」でもよく知られているこのハーブは、「千の用途を持つ木」と呼ばれ、古代から神聖な木とされてきました。
ドイツでもリンデンにまつわる神話や民謡が数多く残され、リンデンの花言葉は「夫婦愛」で「相思相愛の木」、「恋愛の木」としても知られています。
その由来はギリシャ神話によるもので、旅先での貧しい老夫婦の心温かいもてなしに心を動かされた、 大神ゼウス夫妻が、褒美を老夫婦に尋ねたところ、「死によってお互いが離れ離れにならないように」と願い、 ゼウスはその願いを聞き入れ、主人を樫の木に、妻をリンデンに変え、2本の木を寄り添わせたそうです。
古くから花と苞(ホウ)はハーブティーとして親しまれ、 花から採取されるハチミツは貴重品とされリキュールやドリンクなどの幅広い用途に使用されてきました。
和名で「西洋菩提樹」と呼ばれますが、お釈迦様がその木の下で瞑想し、悟りを開いた言われる菩提樹は、 クワ科の「インドボダイジュ」であり、リンデンは東洋の菩提樹とは別の品種で、 英名、ドイツ名は「ライムフラワー」、また、フランスでは「ティユール」と呼びます。
リンデンは「鎮静」、「発汗」、「利尿」に優れていることから、古くからヨーロッパの植物療法では、神経と身体の緊張を解きほぐし、 筋肉の緊張や凝りをもほぐすとされ、心身のリラクゼーションを目的として用いられたり、 心地良い眠りを誘うことから不眠の改善にも使用されてきました。
フランスでは昔から、興奮しやすく、落ち着きのない子供に飲ませる習慣が今でもあり、犬の過度な興奮や緊張の緩和にも使用することができます。
リンデンの主な特徴
リンデンはヨーロッパ原産のシナノキ科の落葉樹で、成長すると30mほどにまで成長します。葉がかわいらしいハート型で、春先の芽吹きの黄緑色の若葉はとても美しいです。
初夏には枝いっぱいに淡黄色の花を咲かせ、甘い香りを漂わせ人々を魅了します。北海道や東北、標高の高い避暑地などなら街中でも見かける木なのですが、この時期にふわりと優しいリンデンの花の香りと出会うと、ちょっぴり幸せな気分になれます。
リンデンに含まれるビオフラボノイドという成分が、血圧を降下させて動脈硬化の予防に有効とされ、 抗酸化作用に優れるフラボノイドを豊富に含み、血中のコレステロール値を下げる働きがあり、 体内の水分バランスを保つために必要なカリウム、マグネシウムを補給しつつ利尿するため、身体に優しい天然の利尿剤としてもおすすめです。
神経性の消化器の不調や頭痛にも有効とされ、発汗、血行促進作用に優れることから風邪の引き始めの緩和にも用いられてきた歴史を持ちます。
英国ハーブ薬局方でも、鎮静、鎮痙、発汗、降圧、それにエモリエント(柔軟化)作用と緩和な収斂作用が報告され、適応症として上気道カタルや鎮咳、風邪、高血圧、不眠の改善などが認められています。
リンデンは様々なハーブと組み合わせることで用途は多岐にわたります。 例えば、フラボノイドとフェノール化合物を含む発汗を促すエルダーフラワーと合わせて風邪の緩和に使用され、 ドイツの小児科では風邪にひきはじめにリンデン「4」に対してペパーミント「1」の割合でブレンドしたハーブティーが処方されるそうです。
神経性の消化器の不調にはジャーマンカモミールやオレンジフラワーとのブレンドがおすすめで、 リラックス作用とともに消化を助けるベルベーヌとリンデンのブレンドティーは、夕食後のお茶と親しまれ、 心地良い眠りを誘うハーブティーとして有名です。
リンデンの皮膚バリア機能について
皮膚に対してのリンデンの働きですが、リンデンは古くから赤ちゃんの産湯として使われてきた歴史があり、 デリケートな肌をいたわり、肌を保湿し艶やかに保つ、皮膚バリアの働きがあります。
ファルネソールをはじめとするリンデンの精油成分が放つ甘いほのかな芳香は、緊張、不安や興奮を鎮め、 心身の緊張を和らげるアロマテラピー効果に優れ、 リンデンとオレンジフラワーのブレンドやリンデンとローズのブレンドは肌を艶やかに保つために、 リンデンとラベンダーは日焼けした肌をいたわるための入浴剤として用いられてきました。
リンデンはフィトエステティック(植物美容)の分野でも重要なハーブのひとつとされ、 外用でハーブティー(浸出液)やハイドロゾル(フローラルウォーター)がローションとして用いられます。
古くから湿疹、じんましん、やけど、かぶれなどの皮膚トラブルの治療に用いられてきたリンデンは、 今でも皮膚軟化、鎮静、消炎、収斂、保湿、痒みの緩和、美白、くすみの改善などに使用されます。
■ こんなことが気になったら……。
○体を口や後ろ足でよく掻いている犬に
冬は空気が乾燥しているうえに、暖房によって快適に保たれた部屋の中は特に乾燥しがちに。
今年の冬は連日晴天が続き、空気が乾燥していることも手伝って、皮膚の乾燥による痒みでお悩みの犬たちも多かったように思います。
繰り返しになりますが、犬たちも皮膚が乾燥すると、肌の保湿機能や角質層のバリア機能が低下し、肌が過敏になったり、肌荒れを引き起こしやすくなります。
また、花粉などによるアレルギー反応は、鼻水や目の痒みといった症状だけでなく、 敏感になっている皮膚を刺激してアレルギー反応を起こしやすくなると言われていますので、 出来るだけ早いうちに皮膚の乾燥ケアを心掛け、バリア機能を高めて皮膚免疫をアップさせておきたいですね。
皮膚の乾燥に伴う痒みは辛いものです。
犬たちにとっても、痒みを我慢するのはなかなか難しいようで、お留守番の間や飼い主さんが目を離した隙に、 ついつい掻いてしまったり、舐めてしまい皮膚の状態を悪化させてしまうケースがあったら、ぜひ、ハーブのやさしいチカラをかりて「ハーブティーケア」にチャレンジしてみてください。
■ オススメハーブの取り入れ方
1.内側から皮膚・被毛の健康を保つためのハーブを摂取していただくことと、外側からアルコールを含まないリンデンのハイドロゾルに、乾燥がひどい場合は植物性のグリセリンを加えて保湿力をアップさせ、乾燥や炎症、痒みの気になる箇所にスプレー、もしくはコンプレスをし、その後にミツロウ、シアバターなどで作られたクリームをやさしく皮膚に馴染ませもらう方法が一番オススメです。
2.リンデンのハイドロゾルが手に入らない場合は、リンデンのティーを少し濃い目に抽出したものに、保湿に優れ、消炎、皮膚の修復作用があるマシュマロウのティー(浸出液)と植物性のグリセリンを加えたものを塗布し、その後クリームで保湿してもOK。
3.皮膚の炎症を緩和したい時には、ジャーマンカモミールティーとのブレンド、痒みを緩和したい時にはペパーミントティーやウィッチへーゼルティーをブレンドしたコンプレスがオススメ。小型犬であれば、ハーブの浸出液で沐浴をし、その後に乾燥が気になる箇所にクリームを塗ってもらいます。
昨年、リンデンの花に、軟骨の主成分であるコラーゲンとプロテオグリカンを分解する酵素の生成を抑える効果と、 痛みの原因となる炎症を抑える効果が発見され、変形性関節症の予防に役立つという研究結果が発表されました。
軟骨の細胞を用いた関節炎モデルの実験で、リンデンの花のエキスに、コラーゲンを分解する酵素「MMP-13」と、 プロテオグリカンを分解する酵素「ADAMTS4」および「ADAMTS5」の生成を抑える効果と、 炎症を悪化させる物質「PGE 2」および「IL-6」の生成を抑える効果が発見されました。
まだまだこれからも研究を重ねてゆくことになると思いますが、やはり、「千の用途を持つ木」と呼ばれてきたリンデンは、これからも目が離せないハーブのひとつとなりそうですね。
リンデンは紫外線などでダメージを受けたお肌の修復を促してくれる働きもあり、飼い主さんのお肌の乾燥や春の紫外線によるダメージが気になる時に化粧水として使用できるので、犬と一緒に楽しみながら使うことができますよ。
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フィトセラピスト 堂山うららさん
さぁ、ハーブのやさしいチカラをかりて、今よりもっとHappyな毎日をスタートしましょう。