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2025.12.25
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.57 「アイメイト・サポートカレンダー」で振り返る1年
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
世の中は変化しても、犬がいる愛の光景は変わらない
2025年も残りわずかとなりました。皆さんは、どんな愛犬との1年間を過ごしましたか?僕は、アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)の不適格犬(さまざまな理由で家庭犬の道に進んだ元アイメイト候補犬)、「ルカ」との暮らしが2年目を迎え、新しい家族との新鮮な日々が落ち着いた日常へと熟していく1年だったような気がします。世の中的には、初の女性総理大臣が誕生したりと、ようやく変化の兆しが見えてきた1年といったところでしょうか?
そして、ドッグフォトグラファーとしては、今年も毎月の「アイメイト・サポートカレンダー」の撮影を通じて、犬たちと共に四季の移り変わりを感じてきました。「アイメイト・サポートカレンダー」は、アイメイトやアイメイト候補犬と人々の絆を、四季の風景と共に写真で綴るチャリティーカレンダーです。2010年版から毎年撮影を続けてはや15年になりますが、時代の変化はあっても、犬がいる愛に満ちた光景は変わることはありません。
2025年締めくくりの今回は、来年2026年版のカレンダーのために1年かけて撮影した写真を見ながら、1年を振り返りたいと思います。
希望に満ちた門出と穏やかな余生
1月には、雪をかぶった富士山を背景にした「飼育奉仕」の写真を選びました。アイメイトの飼育奉仕は、生後2ヶ月過ぎから訓練に入る1歳過ぎまで、1年間候補犬を預かるボランティア活動です。この候補犬と奉仕家庭のお嬢さんのツーショットは、今年2月に撮影。奉仕期間が過ぎた今は、もう候補犬は奉仕家庭から巣立っています。飼育奉仕に対しては、かわいい盛りでのお別れに切なさを感じる人も多いと思います。でも、「立派なアイメイトになるんだよ」と送り出す方も、送り出される方も、胸を張って次のステージに進むのです。若い二人のキラキラと輝く力強い瞳と富士山の姿に、そんなイメージを込めてみました。
2月は、高齢のためアイメイトを引退したリタイア犬の写真です。ほとんどの場合、リタイア犬は一般家庭に引き取られて家庭犬として余生を送りますが、この写真のリタイア犬は引退後も使用者のもとにそのままとどまりました。アイメイトと使用者は、1対1の強い絆で結ばれてこそ、安全に歩行できます。そのため、パートナーを引退後にそのまま引き取った場合には、次のアイメイトを迎えることはできません。この元使用者は、それを承知でリタイア犬との暮らしを選びました。いずれ次のアイメイトを迎えるにしても、「一度は最後まで面倒をみてみたい」という強い思いがあったのです。写真は、奥様とリタイア犬と近所のカフェを訪れた際の、そんな暮らしのひとコマです。
2025年の桜前線は、概ね「平年並み」となりました。地球温暖化の影響でここ何年も早めの開花が続いていたので、いつしかカレンダーの桜の写真も4月から3月に移動していたのですが、今年の3月のこの訓練風景の写真は、4月4日に東京郊外で撮影したものです。都内でも、以前は桜と言えば3月末の卒業式よりも、4月上旬の入学式のイメージではなかったでしょうか。その季節感が、なんだか久しぶりに戻ったような気がしました。
季節の息吹を全身で感じながら
4月は1月に続いて飼育奉仕の写真。撮影地は山梨県内の“桃源郷”です。僕が暮らす長野県やお隣の山梨県の山里では、梅→杏(あんず)→桜→桃の順に開花していきます。花でいっぱいの、それはそれは美しい春なのです。撮影の日は季節の変わり目らしく雨模様でしたが、飼育奉仕家庭の子どもたちと候補犬の純粋な心が天に届いたのでしょう、撮影中の1時間ほどの間だけ雨が上がり、道一面に散った桜の花びらの先に、ピンク色の桃の花が可憐に浮かび上がりました。
5月は繁殖奉仕家庭で生まれた子犬たち。6月は、菖蒲園を歩く現役アイメイトペアの写真です。この頃になると、比較的涼しかった春の面影は去り、夏の酷暑を予感させる蒸し暑い日が多くなっていきました。そういえば、2年前のこの時期まではまだコロナ禍の世の中でしたが、今年に入ってからマスク姿の人がぐっと減って、モデルになってくださる皆さんに「撮影中だけマスクを外していただけますか?」とお願いすることもほとんどなくなりました。コロナの脅威はまだ存在するし、今はインフルエンザが流行しているわけですが、この初夏は久しぶりに思い切り深呼吸をして、風に乗せられてくる夏の息吹を感じることができました。
待ったなしの酷暑対策と変わらぬ子犬の視線
アイメイトの歩行指導は、アイメイト歩行を希望する視覚障害者とアイメイト候補犬をマッチングして、4週間の合宿形式で行われます。この7月の写真のように、路上駐車車両を避けて歩くなど、最初から路上に出て実践的な練習をします。4週間での歩行距離は合計約120kmにも及びますが、さすがに酷暑が続く真夏は、歩行指導合宿はお休みとなります。この歩行指導の写真も、6月上旬のクラスの様子です。夏の高校野球も、7回制への移行が決定の方向で議論されていますが、日本の夏の光景は、今後も各方面で変わっていきそうですね。
続く8月の写真は、ふだんは家庭犬として奉仕者のもとで暮らしているオスの繁殖犬です。アイメイト候補犬たちのお父さんとなるべく選ばれた犬ですから、水辺を疾走する力強い姿を狙ってみました。この写真もまた、本格的な酷暑を迎える前の7月中の曇天を選んで撮影しました。近年はカレンダーの撮影も8月はお休みです。
政治の世界でも、今年は、アメリカでトランプ大統領が返り咲き、国内の地方政治でも県知事のスキャンダルからの出直し選挙や、辞職騒動が続きました。そして、当初の予想を半ば覆す形での初の女性総理の誕生。個人的には、これまでのマスメディア主導の世論形成がSNS主導にシフトチェンジした影響が、政治の世界にも如実に及んだ一年だったと思っています。
そして、僕はもともと、政治や世論といったものが纏うある種の生臭さとは、距離を置きたいタイプです。それが10年間の新聞記者・報道カメラマン生活から離れた理由の一つなのですが、このカレンダーの撮影を通じて子犬たちの純粋な眼差しと向き合うと、「ああ、こっちの世界に来て本当に良かったなあ」と思うのです。移ろいやすい世相や政治に左右されない、普遍的な愛がそこにはあります。
犬は永遠の存在
秋は、ただでさえセンチメンタルな気分になる季節ですね。僕は紅葉がひときわきれいだった年に、2度の愛犬との別れを経験しているので、余計にそう感じます。それでも、秋は一年で最も好きな季節です。ギラギラとした夏の熱気と湿気が冷涼で新鮮な空気と入れ替わると、清らかな気分になれます。そして、何度も愛犬との別れを経験したうえで確信しているのは、この世で別れた犬たちは、永遠の存在へと昇華するということ。秋晴れの澄んだ青空を見ていると、「ずっと一緒だね」と実感できるのです。
クリスマスの飾り付けがされた奉仕者宅のリビング。昨年暮れに撮影したこのリタイア犬も、今は永遠の存在となり、優しく手を添えるリタイア犬奉仕者や現役時代のパートナーの心の中に、ずっと生き続けています。そして、そうした個人個人の繋がりを超えて、天国にいる犬たちは皆、僕たちみんなと共にあるのではないでしょうか。僕はそれほど、犬の愛情は純粋だと信じています。
来年も犬がいる幸せな世界で会いましょう!
皆さんの1年も楽しいこと、悲しいこと、素敵なこと、腹立たしいこと、いろいろなことがあったと思います。そして、何があったとしても、やっぱり犬と共に歩む人生は幸せだと僕は思います。最後に、「2026アイメイト・サポートカレンダー」用に撮影した、未使用のアザーカットを以下に紹介します。皆さんの愛犬との暮らしと重ね合わせながら、改めてご覧いただければ幸いです。
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。本連載でも取り上げたアイメイトのリタイア犬との日々を綴った『リタイア犬日記〜3本脚の元アイメイト(盲導犬)の物語〜』で、大空出版「第5回日本写真絵本大賞」毎日小学生新聞賞受賞。同個展をソニーイメージングギャラリー銀座で開催した。
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