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2024.02.19
【#真のプロフェッショナルに迫る】失明しても不自由なし!世界にひとつ"ドッグバンパー"開発ストーリー
あまり目立たないけれど、実は犬との生活を陰で支えている繊細なプロの仕事の存在を、意識したことはありますか?
"真のプロフェッショナル"とたたえたい、犬との暮らしを快適にしてくれる匠と、その技の誕生秘話などを紹介します。(POCHI編集チーム)
今回のお役立ち情報ドッグバンパー
今回ご紹介するのは、視力を失った犬たちの暮らしをサポートする"ドッグバンパー"を制作する西澤洋さんのプロの仕事。
多くの飼い主が頼る犬の補助具を生み出すに至ったストーリーや、こだわりについてお話しいただきました。
盲目の犬のためのオーダーメイド補助具とは?
「もうコレはうちの子にとって、体の一部です」
「盲目のうちの子の安心な生活のために、作って本当によかったです」
「ドッグバンパーのおかげで、犬も飼い主もまた前を向いて速足で散歩できるようになりました」
目の見えない犬のための補助具を開発した西澤洋さんは、このような感想を励みに、2023年末までに約500個の“ドッグバンパー”を作り続けてきました。
「ドッグバンパーは、視覚障碍者が使用する白杖のようなものです。
軽量な樹脂でできていて、その前面の輪っか部分が障害物に触れると変形し、衝撃を逃すという仕組みです。
ドッグバンパーを装着して歩くことに慣れてきた犬は、白杖のようにドッグバンパーを使い、探りながら障害物を察知できるようになるんですよ」
このように語る西澤さんは、何かにぶつかった感覚をきちんと身体に伝えるためには、ドッグバンパーを身体にフィットさせることが重要であると考え、完全オーダーメイドで製作しています。
「ドッグバンパーを頑丈に作りすぎると、何かにぶつかった際、犬の身体に衝撃がかかりすぎて危険です。だから、個々の体重や体型を考慮したうえで、安全面を優先しつつ重量を計算してオーダーメイドで作るのが重要なんです」(西澤さん)
難題をいつもチャンスに
2016年に製品化された初代のドッグバンパー(スタンダードタイプ)から改良に改良を重ね、2024年現在のドッグバンパー(レガシー)の重さは半分以下になりました。
「先日、首をよく動かすというイタリアングレーハウンドの注文を受けました。
ドッグバンパーを付けて首を動かしすぎると、輪っかに顔が接触することもあります。少し特殊な例であるそのイタグレさんが快適に使えるように、2回くらい作り直して送り出しました。試作品という意識で、利益は度外視しましたね。難題が来れば、それはドッグバンパーが進化するチャンスを与えられたと思っています」(西澤さん)
これまでのチャンスを活かしたチャレンジの末、ドッグバンパーには“レガシー”と“シンプル”の2種をラインナップしました(2024年2月現在)。
高級モデルのレガシーは、前方のリング(フレーム)の角度が変えられるので、犬が下を向いた姿勢でも不自由なく使えるのが最大のポイントです。
シンプルもレガシーも、市販の既製品に比べればずっと軽量で、犬の首から頭部にかけてフィットして使い勝手バツグンなことは変わりません。
愛する3頭に何もできなかったから…
ドッグバンパー開発の裏には、西澤さんがともに暮らしていた3頭のパグの存在がありました。
「3頭とも、角膜潰瘍によくかかりました。なかでも一番活発だったクーは、度重なる角膜潰瘍の末に、視覚をほとんど失ってしまったようです。室内で壁にぶつかっては悲鳴をあげていたクーの姿が、今でも忘れられません。目が見えない以外は元気だったのに、痛くて驚く経験を重ねたせいか、気づけば全然動きたがらない子になっていたんです。
クーのために、自身が設計エンジニアとして持つ知識や技術を活かして装具を作ってあげたい。そう思ってはいましたが、工業製品メーカー勤めで多忙を極めていたのを理由に、結局は以前のようにクーに散歩を楽しませてあげられず……。早くドッグバンパーを作っていたら、クーは心身ともに元気でもっと長生きできたかもしれないという後悔の念が、逆に退職後にドッグバンパーを作るエネルギーになったとも言えますね。1頭でも多く、クーと同じ境遇になってしまった犬の生活に、再び楽しみを取り戻させてあげたいという情熱がフツフツと沸き上がりました」
失明すると心身ともに健康問題が生じがち
西澤さんは、失明した犬は衝突によるケガのリスクが高いことを、自身の犬たちとの生活で強く感じました。
「それだけではなく、クーのようにぶつかるのを恐れて動かなくなると、筋力低下や運動や遊びへの意欲減退など、心身の健康面でも問題が生じますよね。
衝突時のケガのリスクや恐怖心を軽減するために、何か作りたい……。と考えて続けていたある日、急にアイデアが舞い降りてきたんです(笑)。
犬の頭のまわりを輪っかで囲い、そのフレームを身体に接触させておくことで、障害物にぶつかった際にソフトな感触を犬に伝えられるに違いない! と」
さっそく西澤さんは自宅の3Dプリンタで、目の不自由な犬用装具の設計に取り掛かりました。
試作品ができあがると、SNSでモニターを募集し、複数の獣医師にも意見を聞いて改善ポイントを収集。それから約半年後、ドッグバンパー(スタンダードタイプ)は製品化されました。
4頭目のためには、開発品が役立った!
西澤さんは、3頭のパグたちが旅立ったあと西澤家にいたミックス犬の“へそ”くんのためには、ドッグバンパーを役立てることができたと喜びます。
「へそも晩年は白内障が進行して、ほとんど視覚を失っていたようですが、ドッグバンパーのおかげで室内でも屋外でも、快適に過ごせたと思います」
失明しても西澤さんハンドメイドのドッグバンパーのおかげで、元気で安心してシニアライフを送ったへそくんは、12歳で旅立ちました。
「ある日突然、我が家で私に寄り添ったまま逝ってしまいました。きっとほとんど苦しまず、前日までドッグバンパーをつけて朗らかに過ごせていたのはよかったです。
へそは製品の改良すべき点を教えてくれたりもして、私のよき協力者でした。ほんとうに、感謝しています」
きっと今も、空の上からクーちゃんやへそくんは西澤さんのドッグバンパー製作を応援し、西澤さんのおかげで快活な生活を取り戻した犬たちを見つめているに違いありません。
文:臼井京音
■ 西澤洋さん・千鶴さん ドッグバンパー
ドッグバンパーの申込は、HPや公式LINEにて。
採寸は、対面(神奈川県横須賀市)または採寸具を使用してのビデオ通話で実施。見積書作成から入金を経て、オーダーメイドのドッグバンパーの製作がスタートし、1週間~10日後に完成品が出荷されます。
HP:https://www.dogbumper.net