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2025.03.03

一時預かりボランティアとして保護犬と暮らす

一時預かりボランティアとして保護犬と暮らす

実はあまり目立たないけれど、犬との生活を陰で支えている繊細なプロ仕事の存在や、犬たちの個性や特性はときに困った行動と捉えられてしまうこともありますが、個性を受け入れて前向きにうちの子と向き合う時間につなげる楽しい"チャレンジ"に変えている人、また、病気を受け入れ、病気と共に明るく生きるために工夫している人、里親以外でも飼い主がいない犬のためにできることを地道に実行している人など、#プロフェッショナル #ベテラン #チャレンジ #明るく生きる #専門家 をキーワードにインタビューした内容をご紹介しています。
今回は、詳しく知りたい保護犬の【一時預かり】についてお届けします。(POCHI編集チーム)



今回のお役立ち情報保護犬の一時預かりボランティア

うちの子として迎えるのではなく、数ヵ月~1年ほど自宅で保護犬を預かるボランティアとして犬と暮らす人が今、増えています。今回は、一時預かりをしている複数の方々に、話を聞きました。

預かりボランティアという選択

最近、保護犬の一時預かりを始める人が増えていると、複数の動物愛護団体の方から聞きます。
近い将来引っ越し、海外赴任、結婚、療養、介護などで家庭環境が変化する可能性があって、子犬などから新しく犬を飼い始めるのはむずかしいと感じているとか、保護犬が気になるけれど、飼い主の年齢などさまざまな条件でうちの子としては迎えられないという方でも、保護犬を一時的に預かれば自宅で犬と暮らせるのが、その理由かもしれません。

「一時預かりボランティアであれば、私が所属している“小さな命を守る会”(東京都町田市)では70代以上でも大丈夫で、年齢制限はありません。なので、退職して犬のお世話をする時間ができたシニア層の預かりボランティアさんも多いですよ」
と、筆者が2年ほど前に迎えた元野犬のリリを半年間ほど預っていた本橋直美さん。先住犬を保護犬として迎えた本橋さんは、6年間で20頭ほどの一時預かりもしてきました。

先住犬と一時預かり犬が仲良く過ごしています(本橋さん宅)

先住犬と一時預かり犬が仲良く過ごしています(本橋さん宅)

リリは本橋さんのもとで、愛情をたっぷり受けながら過ごしました。保護当時はすでに椎間板ヘルニアの後遺症で後ろ脚が立たず、鼻のまわりの被毛も薄く、推定12歳と判断されたリリ。ところが、愛護団体のもとへ来てから獣医師に診せると「まだ5~6歳くらい」と訂正されたとのこと。
預かり中に本橋家の先住犬たちとも取っ組み合って“ワンプロ”をしたり、旅行に行ったり、たくさん散歩もしたのですっかり後肢にも筋肉がつき、不自由なく歩けるようにもなりました。
筆者もとても感謝していて、ペットホテルや老犬デイケア施設も運営している本橋さんとは今も交流があります。

本橋さんが運営している犬のデイケアとホテルでの預かり、第2の犬ホームと一時預かり施設“Nose Touch”(神奈川県相模原市)にて、リリと本橋さんの半年ぶりの再会。預かり犬のコッカースパニエルともリリは仲良くできました

本橋さんが運営している犬のデイケアとホテルでの預かり、第2の犬ホームと一時預かり施設“Nose Touch”(神奈川県相模原市)にて、リリと本橋さんの半年ぶりの再会。預かり犬のコッカースパニエルともリリは仲良くできました

喜びとやりがいが多いボランティア

本橋さんは、新しい家族から送られてくる「ご縁をつないでくださってありがとうございました」「こんなに元気にしています」といった近況報告が、預かり時代に苦労したことも吹き飛ぶ最高のご褒美だと言います。

“小さな命を守る会”での預かりボランティア歴3年の松村真理子さんは、
「久々に再会した私を見て『え? 誰』って顔をされると、喜びを感じますね(笑)。我が家にいるときは、避妊去勢手術や初めての経験や病気の治療など、ドキドキしたり怖い思いをすることも少なくないでしょう。でも、新しい家庭では、預かり生活のことを忘れるくらい幸せなんだと実感できるからです」と語ります。

本橋さんが2025年1月現在一時預かりをしているノアくんのお世話をする、松村さん

本橋さんが2025年1月現在一時預かりをしているノアくんのお世話をする、松村さん

預かり犬には必要に応じて、動物病院での治療、人との生活や散歩、ほかの人や犬に慣れさせること、クレート(ケージ)やトイレのトレーニング、基本的なしつけなどを預かりボランティアが行います。
「一時預かりをしていただく方は、これまで犬と生活したことがあり、犬の扱いに慣れていることがどうしても必須条件になります。
保護犬の場合は急に動物病院に行く必要が生じることもあるので、時間に融通が効くことも重要です」
2020年から約200頭の犬を譲渡してきたアニマルシェルター“BeSail_Animal(ビセイルアニマル)”の福本美帆代表は、このように語ります。

福本美帆さんと、シェルターにいる保護犬。シェルターには犬部屋が4つと猫部屋が1つあります

福本美帆さんと、シェルターにいる保護犬。シェルターには犬部屋が4つと猫部屋が1つあります

驚きあり、試行錯誤ありの貴重な経験

「保護犬たちは、まずはシェルターでしばらく過ごしてもらって、その子の性格を見たり治療を施したり、犬同士の社会勉強をさせたりしています。
そのあと、シェルターのお掃除やお散歩ボランティアをしてくださっていて私が信頼できると思った方に、そのご家庭にマッチする保護犬の預かりボランティアをしていただいています」(福本さん)

BeSail_Animalではシェルターで、まずは基本的なケアを行います

BeSail_Animalではシェルターで、まずは基本的なケアを行います

“BeSail_Animal”に沖縄からやって来た保護犬を、ひとり暮らしをしながら預かっている保坂あゆみさんも、ボランティアがきっかけで一時預かりを始めました。
「掃除などのボランティアとしてだけ1年ほどシェルターに通い、預かりボランティアの存在や魅力も知りました。
実は数年前にうちの子を大変な介護の末に失い、親はペットロスに近いくらいに深く悲しみ、もう犬は飼えないと……。でも、一時預かりでならば犬たちと関われるということで、まずは実家生活時代に預かりボランティアを始めたんです」
その頃から数えると、保坂さんにとって現在は4頭目の犬だそうで、預かりボランティアの経験で驚いたこともあると言います。
「今も宮古島出身の元野犬を預かっていますが、うちで預かった野犬の子たちは、吠えないし、咬まないし、おとなしいんですよね。こちらが身構えていたので、想像と違いすぎて拍子抜けしました(笑)。
その代わり、預かりっ子のペースで人に近づいて来てくれるのを待ったり、怖がりなので散歩のときは脱走対策はすごく気を遣って万全にしています」

あゆみさん宅にいる、沖縄県から来た元野犬。だんだんと距離が縮まって人を信頼し始めているとのこと

あゆみさん宅にいる、沖縄県から来た元野犬。だんだんと距離が縮まって人を信頼し始めているとのこと

預かりボランティア自身も成長できる

自身も保護犬や保護猫の一時預かりを何頭もしてきた箱崎加奈子獣医師は、次のように語ります。
「最終的には“家庭犬”になるので、譲渡前に人との生活に慣れておくのはとても重要です。譲渡会などで『この子とは一緒に暮らしやすそう』と思ってもらえれば、譲渡されやすくなりますし、譲渡後に問題行動などで愛護団体に戻ってきてしまう確率も減ります。
そういう意味で、一時預かりボランティアの存在は貴重で、愛護活動に欠かせません」

箱崎獣医師がBeSail_Animalから一時預かり中のチワワは、散歩が大好き。室内では預かり猫のスペースに自ら入っていくことも

箱崎獣医師がBeSail_Animalから一時預かり中のチワワは、散歩が大好き。室内では預かり猫のスペースに自ら入っていくことも

「譲渡会の来場者に、預かりボランティアをしてみたいけれど負担が大きいのではないかとよく相談されますが、預かり中の犬がいる間は旅行に行けないなどということもありません。ほかの預かりボランティアが旅行の間は面倒を見たり、治療費や食費や犬用品もすべて団体から支給されます。獣医師と連携をしている団体も多いので、保護犬の体調面で不安に思ったらすぐに相談してもらえれば対応も早くにできます。
自分でもできるかなと悩んでいる方は、まずは一度トライしていただければ、思ったほど大変ではないと感じるのではないでしょうか」と、本橋さんは言います。

「トレーニングに関しても、先住犬のマネをしてトイレを覚えたり、散歩も先住犬を追いながらじょうずに歩けるようになったりするものです。
やんちゃな子もいれば、おとなしい子もいて、タイプの違う子との生活は毎回飽きない楽しさにもあふれていますよ」(松村さん)

保坂さんも掃除やお散歩ボランティアを経験したBeSail_Animalのシェルターにいる保護犬たち。まずは気軽にシェルターボランティアなどから保護犬にかかわり始めるのも良いでしょう

保坂さんも掃除やお散歩ボランティアを経験したBeSail_Animalのシェルターにいる保護犬たち。まずは気軽にシェルターボランティアなどから保護犬にかかわり始めるのも良いでしょう

「預かりボランティアをとおして、さまざまな保護犬と一緒に自分も成長していけることにやりがいと喜びを感じています」
このように語る保坂さんのように、犬たちの明るい未来を支えられる新しいチャレンジとして、預かりボランティアを今後のドッグライフの選択肢のひとつに考えてみてはいかがでしょうか。



ライター:臼井京音

取材協力:

*1 Nose Touch (ノーズタッチ) https://nosetouch.org

*2 BeSail_Animal インスタグラム @rescue_dog_cat https://www.instagram.com/rescue_dog_cat/