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2021.12.29

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.10 犬の精神年齢を人に当てはめると?

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.10 犬の精神年齢を人に当てはめると?

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

大型犬の12歳は89歳?

昔は正月に1つ歳を重ねた。生まれた時を1歳とし、正月を迎えるたびに年齢を加える「数え年」である。たとえば、うちのラブラドール・レトリーバー「マメスケ」は2022年1月時点で満12歳だが、数えだと14歳になる。今回は、そんな「犬の年齢」について考えてみたい。

犬と人とでは成長のスピード・寿命、そして、知能の性質も異なるので、人間の感覚ではなかなか犬の年齢を測り難い。そこで、犬の平均寿命14.44歳(2019年公表値)をもとに割り出した人の年齢との換算表が出回っている。小・中型犬と大型犬では計算式が異なり、それによると大型犬で12歳のマメスケは89歳、小型犬の12歳なら64歳となっている。これは確かに肉体的な年齢の目安にはなるだろう。まだまだ元気に日常生活を送っているマメスケが89歳というのは、ちょっとお爺さんすぎる気がするが・・・。

一方、犬の精神年齢(知能)を科学的に人に換算するのは難しい。人の言葉や表情を読み取る能力からみて、3歳児程度だとはよく言われるが、これは犬の飼い主や人の親の肌感覚で、一般論として受け入れやすいものだろうか?

人と犬の分かれ目は「5歳」?

自分には子どもがいないため、犬=3歳児説には、これまで今ひとつピンと来なかった。ただ、数年前から幼稚園の行事を撮影するアルバイトを時々するようになって、3歳児の知能・精神年齢が肌感覚で分かってきた。今、カメラマンとして犬と園児の両方に接してきた結果、僕なりの答えが出つつある。うん、3歳児説、概ね正しいのではないだろうか。

3歳は幼稚園の年少である。年中は4歳、年長は5歳。この時期の子どもの成長は早く、年少と年長を比べると、年長さんはぐっと大人びて見える。年少さんは、発表会などで舞台立つと、指をくわえて「ママ、ママ」と叫ぶだけの子や、泣きじゃくる子、呆然と立ち尽くす子もいる。年長になるとそういう姿は見られず、セリフの多い劇を抑揚たっぷりに演じたり、高度な器楽演奏も上手にできる。学習発表会では大人でも難しい計算をこなし、ことわざの知識や英会話を披露する子も珍しくない。
そうした計算能力、高度な言語能力は犬にはないものだ。演技ができる犬もいるが、一般的に広く犬に備わっている能力とは言えない。そんな視点で園児たちを見ていると、他の動物にはない(あるいは希薄な)人間特有の能力が大きく花開くのは、平均的に年長=5歳児からだと僕は思う。つまり、犬を幼稚園児にたとえると、年少か年中ということになる。

また、年長の子の目には、大人びた憂いや抑制的な「節度」を感じることもある。年少・年中の子には総じてまだそうした大人の顔は見えない。犬の場合は、年齢を重ねた老犬でも、基本的には子犬と同じ無垢な目をしているので、やはり、5歳が人と犬の分かれ目なのかな、と思うのである。

「犬は3〜4歳児相当」が僕なりの結論

一方、生まれたばかりの赤ちゃんと子犬を比べると、子犬は生まれてすぐに食事・排泄・睡眠といった基本的な行動が自分でできるようになるし、目が開く生後10日〜2週間もすれば活発に駆け回り、犬同士、あるいは人ともじょうずに遊べるようになる。子犬が人間の乳児と比べて「大人」なのは明白で、こうして下を見ても犬=3歳児説は妥当に感じられる。

ほかに考慮すべきことは、犬の年齢と、犬種・個体による差であろう。年少=3歳児、年中=4歳児の差は、ちょうど子犬と成犬の差、犬種・個体差を吸収できる程度の差だと、僕は感じている。3歳児説でも、幅を取った場合は2〜3歳児相当とする説が広く出回っているようだが、幼稚園児との生の比較で見た僕の見解では、3〜4歳相当となる。「イヤイヤ期」と言われる2歳児よりは、たいていの犬は自我がはっきりしていて、聞き分けが良いと僕は思う。

という、僕なりの結論にうちの犬たちを当てはめると、元アイメイト(公財「アイメイト協会」出身の盲導犬)で極めて優しく聞き分けの良い「マメスケ」は4歳児、時折ひねくれた表情や憂いを見せたオスのフレンチ・ブルドッグの「ゴースケ」も4歳、天真爛漫でワガママだったメスのフレンチの「マメ」は3歳、大人しいのも老獪そうに見えたのも、単に加齢によるものだろうと思われた老保護犬(雑種・オス)の「爺さん」は、“歳を重ねた3歳児相当”だった−−となる。

もちろん、1歳の犬は1歳の犬、10歳の犬は10歳の犬だと、人に当てはめることなくそのまま見るのが正しい。でも、それはそれとして頭に入れつつ、より深く犬を理解するために「犬は人の3〜4歳」という自分なりの肌感覚も、僕は大事にしたい。

■ 内村コースケ(写真家)

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。