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2025.01.17

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.46 24-25年末年始の犬景

Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.46 24-25年末年始の犬景

写真・文 内村コースケ

犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。

Dog Snapshot的年末年始

2021年3月に始まった本連載も、早くも5年目を迎えました。連載開始当時はコロナ禍の暗い世相でしたが、2024年は街に賑わいが戻り、久しぶりに世の中が上向いているのを実感する1年でした。日本はこのまま停滞から抜け出せるのでしょうか?それを占う分岐点になりそうな2025年ですが、本年も『Dog Snapshot R令和の犬景』をよろしくお願い致します。

さて、24-25シーズンの年末年始、皆さんはいかがお過ごしでしたか?僕はクリスマスの時期を3組のアイメイト使用者と元使用者を訪ねて、九州で過ごしました。そこであらためて犬がいる光景の温かさに触れ、大晦日と正月期間は長野県の自宅で家族とゆっくり過ごすことができました。 



フレッシュなアイメイトペアと九州へ

最初に訪ねたのは、前回のVol.45<アイメイトの「最後のお仕事」>で紹介したアイメイト使用者の杢尾文(もくお・あや)さん。前回記事では、高齢のため引退を決めた先代のアイメイトと日本一周客船クルーズに出かけて最後の日々を過ごした後、新しいパートナーと歩みだすべく、アイメイト協会であらためて歩行指導合宿に臨むまでの様子をレポートしました。

犬の寿命は10〜15年程度ですから、アイメイト使用者が末永くアイメイト歩行を続けるには、パートナーとなる犬の代替わりが不可欠です。代替わりは、前の犬を使用者自らの判断で適切な時期に引退させ、ボランティアのリタイア犬奉仕家庭に余生を託す所から始まります。そして、アイメイト協会で新しいパートナーと4週間の歩行指導合宿を受けます。新パートナーとの生活は、歩行指導のさまざまな課題をクリアして卒業式を終え、自分たちだけで帰宅するところから始まります。

今回は、杢尾さんと新パートナーが歩行指導合宿を卒業し、東京のアイメイト協会から佐賀県の自宅へ帰るまでの様子を同行取材させてもらいました。卒業の日は、クリスマスを控えた12月21日。前パートナーは、アイメイトの中では珍しいチョコラブでしたが、新しいパートナーは小柄なイエローラブの女の子。賢そうで、なかなかの美少女です。

これから長い年月を過ごすことになる佐賀の自宅までは、飛行機の旅。まずは、練馬区のアイメイト協会から、吉祥寺駅近くの羽田空港行きのバス停を目指します。師走の吉祥寺の街の人波を縫うように、アイメイトはコーナー(道路の段差)ごとに止まり、安全を確認しながら杢尾さんの指示で颯爽と歩を進めます。途中、少し道に迷うこともありましたが、杢尾さんは落ち着いて立ち止まり、通行人に道を聞いて無事バス停に到着しました。空港では航空会社のスタッフに案内を頼んだりと周囲の助けも借りながら、スムーズに機内へ。新米のアイメイトにとっては初めての飛行機旅でしたが、座席の足元で終始落ち着いていました。そして、福岡空港まで迎えに来た杢尾さんのご主人と無事合流することができました。



アイメイト協会を後にし、新たな一歩を踏み出す杢尾さんと新米のアイメイト

アイメイト協会を後にし、新たな一歩を踏み出す杢尾さんと新米のアイメイト



訓練とは違い、もう二人だけで歩く本番です。師走の人混みの中を空港行きのバス停目指して歩きます

訓練とは違い、もう二人だけで歩く本番です。師走の人混みの中を空港行きのバス停目指して歩きます



道が分からなくなったら、通行人に聞きます。これもアイメイト歩行の一部。皆さんも街で困っている視覚障害者を見かけたら、勇気を出して「何かお困りですか」と声をかけてみましょう

道が分からなくなったら、通行人に聞きます。これもアイメイト歩行の一部。皆さんも街で困っている視覚障害者を見かけたら、勇気を出して「何かお困りですか」と声をかけてみましょう



空港に到着し、航空会社のカウンターでチェックイン

空港に到着し、航空会社のカウンターでチェックイン



初めての飛行機も上手に乗れました

初めての飛行機も上手に乗れました



無事福岡空港に到着!

無事福岡空港に到着!

初日から大活躍!



杢尾さんの新しいアイメイトは、自宅に到着した翌朝から大活躍。まずは歩いて10分ほどのスーパーに買い物に行き、お昼は杢尾さんが4週間の合宿中に恋い焦がれた本場の博多ラーメンを食べに、行きつけのラーメン屋さんへ。そして、午後からはご主人も一緒に電車で出かけました。











電車で着いた先は杢尾さんご夫妻が大好きなビールの大工場。人気の工場見学に訪れたのです。アイメイトとして迎えた初日は、こうして目まぐるしく過ぎていきました。前日からの初仕事のしっかりとした働きぶりに、ベテラン使用者の杢尾さんも確かな手応えを感じたようです。工場見学の最後に、ご主人とできたてのビールで新しい家族に乾杯しました。





9頭目のアイメイトの甘え顔

歩行指導合宿の卒業式であいさつする福田仁美さん=2024年12月21日

歩行指導合宿の卒業式であいさつする福田仁美さん=2024年12月21日



アイメイトの歩行指導は、通常4人のクラスで行います。杢尾さん夫妻と過ごした翌日、僕は杢尾さんのクラスメイトで、一緒に卒業した福田仁美さんを福岡県内の自宅に訪ねました。今度のアイメイトが9頭目で、一人の使用者が持ったアイメイトの頭数としては、歴代最多です。

福田さん宅では、静かな時間が流れていました。長期にわたった歩行指導合宿と長旅の疲れから、杢尾さんたちとは逆に、帰宅初日は自宅でゆっくり過ごしたそうです。福田さんのアイメイトは、おしゃまな雰囲気の女の子。すっかり福田さんの“娘”になった様子で、甘えた視線を寄せていました。この日は、これまでの8頭との歩みをインタビューさせてもらいましたが、愛に溢れた物語に、心が温まるクリスマス・イブ前日でした。





最高のクリスマスプレゼント

そして迎えたクリスマス・イブ。今度は宮崎へアイメイトのリタイア犬に会いに行きました。

リタイア犬は、ボランティアの一般家庭に引き取られるのが普通ですが、元使用者がそのまま最後まで看取ることもあります。現役のアイメイトとリタイア犬を同時に持つことはできないため、リタイア犬がいる間はアイメイト歩行はできません。霧島山を望む宮崎県三股町に暮らす藏元茂志さんもその一人で、今は白杖で歩きながら、奥様と家庭犬となった13歳の元パートナーと暮らしています。藏元さんとリタイア犬に会いに行った最大の目的は、僕が毎年撮影している「アイメイト・サポートカレンダー」用に写真を撮らせてもらうことでした。

実は九州行きの一週間ほど前、「犬の具合が悪いので撮影は難しいかもしれない」と、藏元さんから電話がありました。ご飯を食べられない状態が続いているとのことで、とても心配でした。高速バスのバス停まで車で迎えにきた奥様に早速、「具合はどうですか?」と聞くと、「昨日あたりから復活しています。食べて、お散歩にも行けるようになりました。奇跡が起きました!」と、満面の笑顔。何よりも最高のクリスマスプレゼントです。

ご自宅に着くと、縁側でのんびりまどろむリタイア犬の姿がありました。僕が居間に通されると、ゆっくりと立ち上がり、待っていた藏元さんの傍らに歩み寄って来ました。目の前でごはんもたいらげ、水もしっかり飲みました。そして、藏元さんは、頑張ったリタイア犬に感謝を込めて得意のギターを披露してくれました。





そして、お気に入りの近所のカフェまで、みんなでお散歩。寝たきりだったつい先日までなら、考えられなかったことです。藏元さんの目の役割は果たせなくなっても、懸命に変わらない愛情を寄せているのですね。クリスマス・イブにふさわしい、素敵な愛の光景でした。





5年前と10年前の年末年始

写真の良いところは、目の前にあるその光景が、シャッターを押すだけで永遠のものになることです。九州から帰って、ふと、「10年前と5年前の年末年始はどんなだったかな?」と過去の写真を見返しました。

10年前、2014年のクリスマスシーズン。その頃の写真には、5年前に亡くなったフレンチ・ブルドッグのマメと過ごした日々がありました。その年の秋に、もう1頭のフレンチ・ブルのゴースケを亡くし、初めてマメと妻との3人で過ごしたクリスマス。その頃のちょっと胸がキュッとする思いが甦ります。正月に撮った3人の記念写真には、ゴースケの遺骨と遺影も写っていました。









5年前の2019-20年は、マメの後を継いで10歳でうちに来たアイメイトのリタイア犬、マルコ(本連載では存命中は「マメスケ」の仮名で登場)と過ごした最初の年末年始でした。クリスマス・イブには、その冬初めてまとまった雪が降って、まだ雪が珍しいマルコは、はしゃいで雪に飛び込んだり、嬉しそうに雪道を歩いていました。その時の記憶は薄れていても、こうして写真が残っていると、当時のことがありありと思い出されます。凍てつく夕暮れの道で撮った翌25日の写真も出てきて、マルコの美しい佇まいが甦りました。明けてその年の正月の妻とのツーショットにも、マルコの愛情深い表情が残されています。











そして今年も、この先もずっと



そして今は、3歳のアイメイトの不適格犬、ルカと過ごしています。ルカとの2度目の正月となった今年も、5年前にマルコと歩いた同じ散歩道を歩きました。特にドラマチックなことはない平凡な正月でしたが、5年後、10年後に振り返って、若くて愉快なルカの姿に、温かい気持ちになることでしょう。

皆さんも、新年などの節目に、「ちょっと昔」の幸せを写真や動画で振り返ってはいかがですか?