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2023.12.11
Dog Snapshot R 令和の犬景Vol.33 「アイメイト・サポートカレンダー」で振り返る1年
写真・文 内村コースケ
犬は太古より人類と一緒に歩んできました。令和の世でも、私たちの暮らしにさまざまな形で犬たちが溶け込んでいます。このフォトエッセイでは、犬がいる情景を通じて犬と暮らす我々の「今」を緩やかに見つめていきます。
四季の風景に溶け込む「人と犬の絆」
僕は、2010年から毎年、アイメイト(公益財団法人「アイメイト協会」出身の盲導犬)のカレンダー用の写真を撮影している。その「アイメイト・サポートカレンダー」は、オンラインショップやイベントで販売し、収益の一部をアイメイト協会に寄付している。
メインテーマは、「人と犬の絆」で、現役アイメイトだけでなく、アイメイト候補の子犬、リタイア犬、不適格犬(さまざまな理由によりアイメイトにならずに家庭犬として第二の犬生を送る犬たち)や、訓練・歩行指導のシーンも撮っている。そのため、「かわいい犬のアップ」になりがちな一般的なペットのカレンダーとは違い、人と犬が一緒に写っていてカレンダーとして大事な四季折々の風景に溶け込んでいるような写真が多い。モデルは皆、実際のアイメイト使用者、奉仕者(ボランティア)、歩行指導員とアイメイト関連犬だ。
今回は、最新の「2024アイメイト・サポートカレンダー」と、別カットで構成する小型版の卓上カレンダー「2024アイメイト・サポートカレンダー mini」のために撮影した写真を紹介しながら、この1年を振り返りたい。
紙一重の幸せを噛みしめて
「2024アイメイト・サポートカレンダー」の写真のほとんどは、今年2023年に撮影している。その幕開けは、3年余り世界を席巻したコロナ禍がようやく収束を見せ、とりわけ「新年」という言葉がふさわしい1月だった。日本人にとって新年のイメージといえば、真っ白い雪をかぶった富士山。そういえば、「アイメイト・サポートカレンダー」で富士山を撮ったことがない。今年こそがそのふさわしい機会だと、富士山が見える町に住む飼育奉仕(生後2ヶ月から約1年間アイメイト候補犬を預かるボランティア)家庭の子どもたちにモデルをお願いした。
続く早春は、これも今回初めて背景に選んだ菜の花畑で撮影。明るい色彩に包まれたこの季節、心が穏やかになるのは人も犬も一緒だ。マスクを外して久しぶりに五感で感じられた今年の春は、とりわけ気持ちがよかった。当たり前の日常がある幸せは、マスク1枚、紙一重で崩れてしまうということを思い知った3年余りのコロナ禍であった。
それぞれの新年度に見た「犬を愛おしむ心」
桜の季節は、仕事や学校の始まりの季節。現役アイメイトも、気持ちを新たにパートナーの目としての仕事に真剣に取り組むことだろう。そして、引退後は、新しい家族とともに同じ“桜の道”をのんびりと散策する。そのどちらの姿にも、僕は人と犬の強い絆を感じる。
候補犬が現役アイメイトとしてデビューするには、アイメイト協会で訓練と歩行指導を受けなければならない。訓練は4ヶ月間、歩行指導はパートナーと一緒に4週間。いずれも東京・練馬区の協会の施設とその周辺の公道で行われるが、歩行指導合宿の卒業試験は、初期の頃から半世紀以上にわたり銀座で行われてきた。
「訓練には犬を愛おしむ心を」「日本一の繁華街を歩ければ、どこでも安全に歩ける」というのが、日本で初めて盲導犬を育成したアイメイト協会創設者の故・塩屋賢一のモットーだ。今年は訓練に1日密着し、銀座の卒業試験も取材させてもらったが、その言葉がより実感を伴って胸に響いた。
「犬がいる生活」の未来を案じた酷暑の夏
今年の夏は温暖化が進む近年でもとりわけ暑かった。カレンダーの撮影も犬の負担にならないよう、高原の避暑地や水辺で行った。アイメイト、家庭犬を問わず、犬は一般的に暑さが苦手だ。このまま酷暑が続くようだと、犬との暮らし方にもますます色々な配慮や工夫が必要になってくるだろう。地球温暖化は、我々愛犬家の問題でもあると、あらためて思い知らされた夏だった。
それぞれの余生と愛のリレー
アイメイト関係のラブラドール・レトリーバーは、比較的穏やかな性格の子が多い。家庭犬として暮らす不適格犬やリタイア犬が、人に対してはもちろん、他の犬とけんかなどのトラブルを起こしたという話は聞いたことがない。今年は、ペットホテルの看板犬として余生を過ごすリタイア犬を撮影させてもらったが、さまざまな性格の犬に囲まれながらどっしりと構える姿が印象的だった(下の写真)。
今年の紅葉の季節は、僕にとっては悲しみの秋だった。こちらの連載でもたびたび暮らしぶりを報告させてもらい、「2024アイメイト・サポートカレンダー」でも先に掲載した3月の写真に使わせてもらった我が家のリタイア犬マルコ(過去の記事には仮名の「マメスケ」で登場)が、14歳4カ月で天国へ旅立った。でも、僕個人の心はどんなに悲しみに包まれていても、紅葉の風情は変わらずに美しくそこにあった。マルコ、そして、すべての犬たちの愛情に満ちた眼差しは、現世の個人の感情を超えて永遠なのだ。
紅葉が落ち葉となり、初雪が降った頃、我が家に一足早いクリスマスプレゼントが届いた。若いアイメイトの元候補犬がやってきたのだ。彼の場合は、アイメイトとしてはやんちゃすぎる一面があるため不適格になったが、良き家庭犬になるべく、我が家にやってきた。きっと、飼い主想いのマルコが、悲しみの日々を長引かせまいと、すぐさま「愛のバトン」を渡してくれたのだろう。そのオスの不適格犬を、僕たちは「聖マルコによる福音書」の次に編まれた「聖ルカによる福音書」にちなんで、「ルカ」と名付けた(下の写真)。
ルカだけではない。純粋な愛とともにある犬は皆、誰にとっても、いつ私たちのもとへやってきても、最高のクリスマスプレゼントなのだ。
「2024アイメイト・サポートカレンダー(A3サイズ・壁掛け)」「2024アイメイト・サポートカレンダー mini(卓上)」は、「アイメイトサポートグッズ・オンラインショップ」で販売中です。
■ 内村コースケ(写真家)
1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒。中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験後、カメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「撮れて書ける」フォトジャーナリストとして、ペット・動物愛護問題、地方移住、海外ニュース、帰国子女教育などをテーマに撮影・執筆活動をしている。特にアイメイト(盲導犬)関係の撮影・取材に力を入れている。ライフワークはモノクロのストリート・スナップ。日本写真家協会(JPS)正会員。