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2021.09.22
【#大きな犬と】グリーフケアをペットの生前から取り入れてハッピーエンディングを
同じ犬でも小型犬と大型犬では、育て方や食事など気をつけたいポイントがちょっと違います。でも世の中にある知りたい情報は小型犬向けが多いのが少々残念…。そんな飼い主さんのために、大きな犬にフォーカスした、遊びや食事や健康といった暮らしの情報を集めて紹介します。(POCHI編集チーム・大きい犬班)
今回のお役立ち情報「グリーフケア」
大きな犬とのハッピーエンディングに向けて、生前から取り入れたいグリーフケアについて、動物医療グリーフケア©アドバイザーで獣医師の阿部美奈子さんに教えていただきます。
グリーフは誰にでも、どの犬にもある
“グリーフ”は直訳すれば“悲嘆”という意味ですが、獣医師で動物医療グリーフケア©アドバイザーの阿部美奈子先生によると、次のような心情をさすそうです。
「自分にとって大切な存在を失うかもしれないと想像したり、実際に失ってしまったときに現れる、不安、緊張、恐怖、後悔、自責、罪悪感、不眠、食欲不振といったさまざまな、ごく自然な心と身体の反応です。
私は約20年前にペットロスについて学んでいるときに、グリーフはペットロス以前から飼い主さんに表れている心情だと気づきました。
その後、グリーフを抱える飼い主さんのそばで不安そうにしている犬を見て犬もグリーフを抱えていると考え、18年前、動物医療グリーフケア©という新しい分野を構築しました。
グリーフをケアしながら過ごすだけで、大きな犬との生活にもっとたくさんの笑顔があふれるに違いありません。そして、犬たちも安心して心穏やかに、病気の治療や介護を受け入れられるはずです。ぜひ、グリーフケアによって、ご自身しか贈ることのできない幸せな最終章を、大きな犬のために紡いでいってもらえたらと願います」
大きな犬にとっての“グリーフ”とは?
犬にとってのグリーフは、日常の変化や、慣れ親しんだものを失くすことです。
たとえば、足腰が衰えて思うように身体を動かせなくなった、海や川で泳げなくなった、散歩に連れていってもらえなくなった、病気で苦痛を感じる、食事に薬を混ぜらておいしく食べられなくなった、いつも一緒にいた同居ペットがいなくなったなど。
そのほかに知っておきたいのは、飼い主さんの接し方の変化も、犬にとってはグリーフになる点です。
「大きな犬を前にして、『ごめんね、もっと早く病気に気づいてあげられれば…』『なんで今日はゴハンを食べないの? ねぇ、どうして?』『かわいそうに。歩けなくなってしまって…』と、悲しげな表情と低いトーンで、話しかけてはいませんか?
あるいは、介護に疲れ、笑顔を犬に向けられなくなっていませんか?
身体が大きな犬の病中や高齢になってからの世話は、人にとっても労力が必要になるので大変です。でも、大きな犬たちは、必死の形相で接する飼い主さんを自分のせいで苦しめていると思うと、グリーフをいだいてしまいます。
そばにいる人の暗い心情を感じると、『自分が悪いことをしたのかな?』と不安になる可能性もありますよね」(阿部先生)
大きな犬への“グリーフケア”の方法
大きな犬たちのグリーフケアは、どうすればよいのでしょうか?
「大きな犬たちは、これまでのように褒められたいと思っているはずです。
看病や介護をしながらでも、『わ~、すごいね~!』と笑顔でたくさん褒めてあげてください。コミュニケーションのキャッチボールを保つことが、大きな犬たちにとって安心・安全な日々につながるのですから」
そう語る阿部先生は、泳げるほどの筋力がなくなっても川や海に連れて行ってのんびり過ごしたり、足腰が衰えても歩行器や車椅子などを使って散歩をさせてあげたり、知育トイにフードを入れる遊びを室内でさせたり、なるべく犬たちがグリーフをいだかないように工夫をするのが大切だとも説きます。
投薬については、普段の食事はそのままに、ササミに薬を入れて肉団子にしてあげたり、大きな口の奥にゲーム感覚で声かけながらポンと放り込んであげたりするのがよいでしょう。
“楽しみ”を提供することこそが、グリーフケアになるのです。
「また、大きな犬を多頭飼育している家庭では、犬たちが常にくっついているところも多いのではないでしょうか? 我が家のミニチュア・ピンシャーとチワワは、寄り添うこともなく思い思いに過ごしていますが…(笑)。
病気や介護が必要な犬だけに全神経と力を注いでしまうと、もう一頭にもグリーフが訪れやすくなることを忘れてはいけません。元気なほうの大きな犬にも、今までどおりに接してたくさん褒めてあげるのが大切です」とも、阿部先生は言います。
そして、同居犬がいなくなることは、残された犬にとって大きなグリーフとなります。
「大きな犬は存在感も大きいので、家庭内は虚無感に包まれることでしょう。それに加えて相棒の名前がまったく聞かれない生活は、残された犬が食欲不振などの“ロス”状態に陥る可能性を高めます。亡くなった子の名前をたくさん出しながら、その子の話を目の前の子たちに聞かせてあげましょう。それも、同居犬はもちろん、人にとってのグリーフケアにもなります」
飼い主さんへの“グリーフケア”の方法
大きな犬を介護する際は、飼い主さんは小さな犬より力を使わざるを得ません。身体が大きいので、動物病院に連れていくにも一苦労でしょう。その分、人が感じる生前の介護疲れによるグリーフも大きくなりがちです。
「飼い主さんは大きな犬のために頑張りすぎて、ひとりでグリーフを抱えないようにしたいものです。
介護にまじめに取り組みすぎると心身ともに疲弊して明るい気分になれず、『この子が旅立ってくれたら楽になれるかも』という考えがよぎることもあるかもしれません。けれども、そのような思いが一瞬浮かんだとしても、当然のこと。罪悪感をあとから抱いて苦しむ必要はありません。そう感じるほどに疲れているのだと、まずは自覚をしてください。そして、頑張っている自分を認めてあげつつ、心身の疲労回復に努めてください。
飼い主さんがおいしく食事をすることも、あまり食べなくなった犬に対して申し訳ない気持ちになるかもしれません。でも、犬は楽しそうな食事風景を眺めているほうがリラックスできるはずです。飼い主さんの笑顔を見ているうちに犬も食べたい欲求が湧く可能性もあるでしょう。
犬が寝ている間は、ご自身も休むようにしてエネルギーチャージするのをおすすめします」
グリーフを仲間に吐き出すのが、最良のグリーフケアにもなります。
仲間とは、たとえば、大きな犬をともに支えてくれる家族、犬友、獣医師など。仲間に話をしてグリーフを共有するだけで、心が楽になれるに違いありません。
「グリーフをひとりで抱え込むと、負の感情に引きずられがちです。ときには、家族やペットシッターや訪問の老犬介護士などに介護をお願いして、その間に自分の好きなことをして心に栄養を補給してください。
大きな犬の目から見ると飼い主さんが元気で楽しそうにしている姿こそが、安心できる、宝物のような毎日の支えになるでしょう」
笑顔になると、また笑顔を見ると、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌されることがわかっています。
家族の笑顔が、犬生の最終章を歩む大きな犬にとっての最大のグリーフケアであり、飼い主さんにとっても愛する犬と幸福な気持ちで共有できるかけがえのない時間になることを、心にとめて過ごしたいものです。
ライター:臼井 京音
■ 阿部美奈子さんと現在の愛犬
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