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2022.04.11
犬の白内障は予防できる?手術はできるの?解説します!【#獣医師コラム】
ヒトでは多くの人が経験する白内障。加齢によって起こり、50代では40%程度が発生すると言われているほど、とてもよく知られている疾患です。
最近では簡単な手術で治療ができるという印象もあるかもしれません。しかし、犬ではヒトと異なる点がいくつかあります。今回は犬の白内障について、現時点で分かっていることをまとめてみました。
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この記事を書いた人 (庄野 舞 しょうの まい)獣医師
東京大学 農学部獣医学科卒業。 東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。 たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。 現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。 得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。講演なども行っている。
白内障とは?
白内障とは、眼の中でも水晶体と呼ばれる場所が濁ることを指します。この水晶体、普段は物を見る上で、ピントの調整を行っています。
普段わたしたち、犬たちが物を見るとき、眼表面の角膜で入ってくる光を屈折させ、瞳孔でその光の量を調節、水晶体でピント調整を行ったのち、網膜でその像が電気信号となり、脳にその像が伝達されるという流れになっています。水晶体は厚みを変えることでピントの調節を行っており、本来は透明なのですが、この水晶体に濁りがあると、外からの光をうまく通すことができなくなり、それゆえ網膜に鮮明な像をうつすことができなくなります。
水晶体は水分とタンパク質で構成されており、このタンパク質の性質が変わり、それによって濁ることで白内障となるとされています。
この性質の変化は基本的には不可逆なため、一度濁った水晶体が透明になることはありません。よく目玉焼きに例えられますが、火を通した目玉焼きは白身が白くなり、かつそれが透明に戻ることはありませんよね。水晶体のタンパク質が濁るメカニズムは完全には解明されていませんが、ヒトではいくつか原因が知られています。
ヒトの場合、この原因は大きく個人要因と環境要因に分類され、前者は加齢や遺伝、糖尿病などの疾患が、後者は喫煙や紫外線などが知られています。最も多いのは加齢ですが、環境要因の影響もあり、様々な理由が複合的に影響し、起きるとされています。
犬の場合、白内障の多くは遺伝によるものとされています。
好発犬種で知られているのは、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフント、ヨークシャー・テリア、柴犬、シー・ズー、アメリカン・コッカ―・スパニエルなどです。犬の遺伝性の場合、若いうちから発症することが多いのも特徴で、白内障は加齢によってでるもの、と認識していると見落とす可能性もあります。
その他、犬では糖尿病になると多くの場合白内障になり、進行が早い特徴もあります。また、物理的な怪我や、ブドウ膜炎などから続発して起きるもの、なども挙げられます。加齢ももちろん要因の一つにはなりえますが、ヒトほど目立っていないというのが特徴です。
※白内障は水晶体を構成するタンパク質の変性が原因、とお伝えしましたが、こういったタンパク質の異常によって引き起こされる疾患は他にもたくさんあります。たとえば2型糖尿病、アルツハイマー病などが挙げられ、これらは患うヒトが多いため問題になっています。タンパク質異常に対する根本的な治療薬というのは現在分かっていませんが、タンパク質の研究が進み、白内障を薬で治療することができるようになると、上記のような疾患にも応用ができるかもしれません。
犬の白内障の症状と診断方法
白内障は、進行度合いに応じて、初発/未熟/成熟/過熟白内障と4つのステージに分けられています。初発白内障は水晶体が少し濁った程度で視覚には影響がほとんどありません。
そのためこの段階で気づくことは困難で、はっきりと眼が白くなったと家族が分かるのは3段階目の成熟白内障と言われています。この時には視力にもすでに影響がでている状態になり、過熟白内障となると、濁った水晶体が溶け出す状態まで行く可能性があります。
白内障の症状は水晶体の濁りとそれによる視力低下で、基本的には痛みはありませんが、水晶体が溶け出す状態まで進行してしまうと、それによる炎症で痛みが発生する可能性があります。
ぶどう膜炎・緑内障・網膜剥離・水晶体変異(水晶体の位置がずれること)等の続発症を起こすこともあり、これらの続発症は網膜や視神経にダメージを与えるため、白内障の手術を受けても視覚が戻らないことがあります。
白内障の診断は眼科診療とその他の一般的な検査によって行われます。眼科診療は、視覚の状態を判断するために犬たちの反応を見る視覚検査、視覚に関わる反射が正常か確認する反射検査、眼の内部を観察するための検眼鏡検査・超音波検査、眼内部の圧力を測定する眼圧検査、網膜の状態を把握するための網膜電図検査などが挙げられます。
(これらの診療は専門的な検査も一部含まれるため、動物病院によってはすべての検査ができない可能性もあります。眼の状態によってどこまで検査を行う必要があるかは異なってきますので、かかりつけの動物病院で相談しながら進めていくのがよいと思います。)これら眼科診療を行ったのち、白内障が起きた原因を調べるために、全身状態の確認も行います。
白内障は一度なってしまったら根本治療は望めない疾患ですので、早期発見が最も大事になってきます。
初発白内障の段階で、家族が見ただけで判断できることはほとんどないとされていますので、定期的にかかりつけの動物病院で診察を受けることをお勧めしますし、病院によっては健康診断に組み込まれているところもあります。
遺伝的によくなりやすい犬種と暮らしている場合はとくに、若いうちから気にかけてあげるとよいかもしれません。
※白内障とよく似ている核硬化症
水晶体は加齢に伴い、徐々に圧縮され、固くなっていきます。この状態を核硬化症と呼び、核硬化症でも眼が濁ったように見えることがあります。しかしこれは生理的な変化であり、視覚には影響を及ぼさないため治療は必要になりません。眼が濁ったという見た目だけで白内障と判断してしまうと、核硬化症と混同してしまう可能性もあるため、必ず動物病院で診断してもらうようにしましょう。
動物病院での治療方法
白内障は一度なってしまうと元の透明な水晶体に戻ることはありません。そのため、水晶体の濁りをとり、再び視覚を取り戻すためには、現時点では外科的に人工レンズを挿入する他ありません。
<外科手術の流れ>
ヒトでは局所麻酔で進めますが、犬だとどうしても恐怖を与えてしまうため、全身麻酔が必須となります。全身麻酔後、眼の周りの毛を刈り消毒、瞼を器具でひっぱって眼を開け、手術開始となります。手術内容を簡単にお伝えすると、角膜を3mm程度切開し、そこから小さな器具を挿入し、水晶体を破壊・吸入します。その後洗浄し、もともと水晶体のあった場所に人工レンズを挿入します。
人工レンズは小さくおりたたみ、角膜に切開して作った穴から器具を通して挿入します。その後、角膜を縫合し、終了となります。短時間で終わる手術にはなりますが、眼内出血やブドウ膜炎などの炎症、感染症などが合併症として知られています。
この手術は基本的には視覚回復および続発症の防止のために実施するものです。そのため、手術後に視覚回復が期待できない場合、たとえば水晶体以外の組織の機能に障害がある時などは、手術を実施するかどうか、よく検討する必要があります。
この状態などは術前に必ず確認をしますので、かかりつけの動物病院でよく相談してみてください。また、この外科手術は専門的な器具および専門技術が必要なため、一般の動物病院で行っているところは少なく、眼科専門の病院や大型病院などを受診する必要があるのも現状です。
外科手術の他、点眼薬による内科治療も存在します。ただしこの点眼薬は、白内障を治療するのではなく、進行を遅らせる働きしかありません。よく使用されるのはピノキシレン製剤と呼ばれるもので、水晶体の混濁の進行を遅らせると言われています。
犬の白内障は予防できる?
一度なったら治らない、と言われると、ではならないようにどうしたらよいだろう?と考えると思います。しかし、残念ながら、現時点で確立された予防法は存在しません。
人間では喫煙や紫外線などの環境要因も発症に影響するとされているため、喫煙をやめる、サングラスをかけるなどが方針として挙げられています。また、加齢によって白内障になることも分かっているため、抗酸化作用のあるビタミンC、ベータカロテン、ルテイン、ゼアキサンチンなどを積極的に摂取する、なども予防法として挙げられることがあります。
しかし、犬では遺伝性の白内障が多くを占めるため、こういった予防法に効果があるのかは分かっていません。上記のような抗酸化作用のある物質を、全体の栄養バランスが偏らない程度に摂取するなどはよいかもしれませんね。
ちなみに、犬は近視であり、視力は0.2~0.3程度といわれています。また色弱であることも知られており、彼らはその分、嗅覚や聴覚で世界を認識しています。感覚器の利用率は、視覚が2割程度、嗅覚と聴覚が4割程度とされており、白内障によって視力が失われたとしても、人間ほどは世界の認識に困らないのではないか、と推察されます。
おわりに
今回は白内障について、お伝えさせていただきました。先日、私の母がちょうど白内障の手術を受け、視界が開けたと喜んでいます。こういった話をよく聞くため、犬でも手術を受けた方がいいのでは?と思うことが多いかもしれません。しかし一方で、視力が失われた犬が、器用に何にもぶつからず家の中を走っている様子もよく見ます。そういった意味でも、白内障との付き合い方はヒトとは異なる視点で考える必要があるかもしれませんね。
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