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2024.06.24
夏に向けて被害のピークへ。これから気を付けたい害虫とは?[#獣医師コラム]
ダニ、マダニ、蚊…害虫対策、いつから始める?
害虫たちが活動を始める一つの基準となるのが、「気温」です。
具体的には、犬たちについてしまう困った害虫の代表でもあるノミは13℃以上で活動を始め、一度ついてしまうと自宅での処置が難しくなるマダニは15℃以上で活発に活動を始めるといわれています。
また、日本の主要な蚊は15℃以上で吸血活動をし始め、アカイエカは約20~30℃、ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)は約25~30℃を好む温度帯とされます。
5月中は肌寒さを感じる日もあった一方で、6月になると地域によっては夏日になる日が大きく増えたり、時期を通して非常に寒暖差が大きい時期です。また、日中強い日差しが降り注ぐことで地表の温度が一時的に15~25℃まで上昇し、ノミやマダニが活発に活動を始めてしまうことがあります。
とくに近年は温暖化の影響もあり、良く晴れたお出かけ日和は気温も高くなりやすいため、害虫たちも活動的になることを覚えておきたいですね。
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獣医師 菱沼 篤子
犬の栄養指導や犬の健康に関する専門知識を持つコンサル担当スタッフとして、さまざまな飼い主のお悩みを聞いている。
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日本ペット栄養学会・ペット栄養管理士 岡安
POCHIで主に犬と猫の健康を応援する記事を執筆しています。犬と遊ぶのが大好きです。相棒は元気いっぱいの牧羊犬種。
ノミについて
犬についてしまう代表的な害虫のひとつがノミ。
ノミは昆虫の仲間で、種類が豊富。日本国内だけでも約80種類が生息していると考えられています。
非常に小さく、大きさは約1.5~3mmで、高さ30cm程度までピョンピョンと飛び跳ね、犬や猫など動物の体に寄生して吸血します。実は犬につくノミはネコノミと呼ばれる種類が多いです。ちょっと意外ですね。
ノミは気温や室温が13℃以上になると繁殖活動に入り、約20℃前後になると発生しやすくなります。
夏場など条件によっては、卵から孵化して卵を生むまでに最短で2週間前後のサイクルを繰り返します。
またノミは家の中のカーペットやソファ、人間のベッド、犬の寝床、床、湿気のある場所などにも卵や幼虫、サナギが生息している可能性があります。
犬が持ち込んだノミに家族も吸血されることがあり、赤い発疹と強いかゆみが出ます。
室内を清潔にして、ノミが犬や猫の体を吸血したり、さらに卵を産んだりしないように予防・駆除する必要があります。
ダニについて
ノミとセットで語られることが多いダニは、実はノミと大きな違いがあります。
ノミと違い、犬に関係するマダニはクモの仲間。かゆみが出る小さな厄介者というところはノミと同じですが、種類が全く違います。
ダニは犬の体に付くというよりも、寝具のほかカーペットやクッション、犬用ベッドなどにつくことが多いです。
マダニについて
ダニの仲間の中でも、犬の体にくっついて悪さをするものといえば、やはりマダニが代表となります。
日本ではマダニの仲間が46種類ほど知られています。
成虫の体長は2~8mmにもなる大型のダニです。マダニは通常のダニと同様、昆虫よりもクモに近い生き物です。
マダニは主に林の中やその周囲、あるいは河川敷などに見られ、草やササなどの葉に付着して息をひそめています。
そこに犬や人間が通ると、その体や衣服にぴょんと飛び移り、体の表面を動き回って吸着する部位を探し、犬であれば被毛が薄い部分を見つけると口器を皮膚に刺入して吸血を開始します。
その後、吸血に伴って徐々に腹部が膨らみはじめます。
そして、幼虫で約3日、若虫で約7日、成虫では10日から14日間くらい皮膚に吸着し続け、十分に吸血するとポロッととれます。
マダニが厄介なのは、吸血中に外そうとしても簡単には取り除くことができないこと。
動物病院では、寄生しているマダニを取り除く専用のピンセットを使って、潰さないよう犬の皮膚から取り除いてから、駆除薬も投薬します。
マダニは一度寄生すると、簡単には振り落とされないようにセメント質の物質で自分の体を固定することはご存知の方も多いのではないでしょうか。
ガッチリと犬に結合しているマダニを無理に引きちぎると、既に吸血された血液がマダニの持っている病原菌やウイルスと混ざった状態で逆流し、犬や人間の感染症の原因になる可能性もあるので、とても厄介です。
ノミ、マダニ対策について
普段からノミ、マダニの対策として投薬を行っているというご家庭も多いと思います。
普段、都市部で暮らしている犬であったり、様々な事情で普段は投薬をしていない、という犬でも野山に出かける時は必ず予防薬を使用するようにしてください。
リスクが高い場所に行くときだけ予防薬を使用するような、一時的な利用でも効果は変わりません。(※動物病院で処方されるようなものであれば、です)
ただ、注意してほしいのが、一般的に使用されている害虫予防のお薬などは効果が現れるまでに48時間ほどかかるものが多いです。
与えてすぐに虫除け効果が現れるわけではないので、お出かけのタイミングの2~3日前までには投薬しておくことをオススメします。
■ 犬のマダニ対策のお薬の種類について
犬に使用される害虫対策のお薬には、働きによって大きく分けて2種類あります。今回のお話では主に「駆除剤」を前提にお話ししています。
・駆除剤:マダニやノミが犬の体にくっついて吸血して初めて効果を発揮します。吸血することによりこれらの害虫に有害な成分が働き、すぐに死んでしまいポロっと落ちます。寄生による感染が広がる前にしっかりと駆除し、家族などに被害が及ぶことを防ぎます。
・忌避剤:マダニやノミが犬の体に付かないようにすることが目的です。ハーブ由来の成分などを使っているものもあります。
蚊について
暑くなってくると、飼い主の手足を襲う蚊。
世界には3,520種類以上の蚊が存在すると考えられており、日本には100種類ほどが生息しています。
国内に100種類もいる蚊ですが、人間の血を吸うのはヒトスジシマカ(ヤブカ)、アカイエカなどの20種類のみです。
蚊と聞くと、血を吸う、かゆくなるというイメージが強いですが、実は少数派。普段は樹液や果汁、花の蜜を吸っており、人の血を吸うのは産卵を控えたメスだけだそうです。
近年はヒトスジシマカ(ヤブカ)が人間のデング熱を媒介することが話題になりましたが、犬にとってはフィラリア症を媒介する厄介者として知られています。
フィラリア症は、蚊を介して犬の心臓や肺動脈に寄生する寄生虫が起こす病気です。犬だけでなく、猫もかかります。フィラリアは成虫になると30cmにもなる糸状の寄生虫です。
フィラリアが寄生することで心臓や血管で血液の流れが悪くなり、様々な障害が見られるようになります。
フィラリア幼虫を含む血液を吸った蚊に刺されることで犬の体内にフィラリアが感染します。犬の体内で成長したフィラリアが成虫になると繁殖をし、血液の中でどんどん増えていきます。
■ フィラリア駆虫薬の注意点
フィラリアの駆虫薬として有名なものに、イベルメクチンがあります。イベルメクチンはフィラリアだけではなく、さまざまな寄生虫に効果的であることから、かつてはよく使われていました。
しかし、ボーダーコリーやシェルティ、ラフ・コリーに代表されるコリー系の犬は、イベルメクチンを使用すると命にかかわる体質を持つ子がいるため、イベルメクチン系の薬を使用することができません。(これらの犬種は動物病院で非イベルメクチン系の駆虫薬を勧められます)
また、幼虫が犬の体内に多く発生している状態で投与を行ってしまうことも避ける必要があります。この状態でイベルメクチンを投与すると、体内で大量の幼虫が死亡することから、ショック反応を引き起こす可能性があります。
そのため、休薬期間明けの予防開始時には、フィラリアの寄生が起きていないか動物病院で必ず検査をする必要があります。
春先に動物病院で「駆虫薬を始める前に血液検査をしましょうね」といわれることがあると思いますが、このためです。
これからの害虫シーズンに備えて…獣医さんからひと言
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獣医師 菱沼 篤子
都心や住宅街にある動物病院でも、ノミやマダニに寄生されている犬やフィラリア症の犬が来院するくらい身近に潜んでいます。ノミ、マダニ、フィラリアのお薬も飲ませるタイプや滴下タイプ、注射タイプがあり、また予防薬の薬の中には1年に1回の注射でOKなものもあります。犬の性格や、ライフスタイルに合わせてかかりつけの獣医さんと相談しながらお薬を選んで、安心で楽しくこれからのシーズンを過ごしてください。
おわりに
今回は、いよいよハイシーズンを迎えることになる、犬につく害虫についてご紹介いたしました。
とくに山や森の中、沢などのアウトドアに出掛けたあとはこれらの害虫が付いてしまうリスクがぐっと上がりますので、注意してくださいね。
一度ついてしまうと厄介な害虫、人間にも被害を及ぼす害虫、病気を媒介する害虫…。さまざまですが、いずれも予防と対策で、被害を最小限に抑えたいですね。
犬と家族の健康のためにも、ぜひ害虫対策は抜かりなく行っていきましょう。