• コラム
  • 獣医師コラム

2024.06.17

犬の皮膚トラブルとシャンプーについて、改めてご紹介します[#獣医師コラム]

犬の皮膚トラブルとシャンプーについて、改めてご紹介します[#獣医師コラム]

犬の皮膚トラブルは、比較的よく見られるトラブルではありますが、何度もぶり返すこともあり、頭を悩ませている方も少なくありません。
かゆみや炎症、湿疹などの症状が毎年梅雨や季節の変わり目に見られる、という方もいるようです。
犬が不快な思いをしてストレスを感じるだけでなく、日常生活に支障が出ることも。
犬の皮膚トラブルの対策として大切な日々のお手入れについて、獣医師の視点から、犬の皮膚トラブルについて改めてご紹介します。
また、適切なシャンプーの選び方や使用方法、さらには必要に応じて行うべきケアについてもご説明します。
今年こそ皮膚トラブルを予防したい、という方はぜひご覧ください。

DOG's TALK

獣医師 菱沼 篤子

獣医師 菱沼 篤子

犬の栄養指導や犬の健康に関する専門知識を持つコンサル担当スタッフとして、さまざまな飼い主のお悩みを聞いている。

ジメジメ時期に増える皮膚トラブル

■脂漏症

脂漏症は、皮膚や被毛が脂っぽく、べたつき始めたり、逆にフケが多く出てカサつくこともあるなど、なかなか判断が難しいトラブルです。
しかしこれらのトラブルの原因は共通して、皮膚のバリア機能が低下し、皮膚の新陳代謝が、何かしらの原因で異常に速くなって全身の皮脂腺の分泌が過剰になったり、皮膚の角質化が異常に加速した状態を「脂漏症」といいます。

脂漏症になると、犬の皮膚がべたついたり、フケが異常に多くなったり、皮膚の色味が黒ずんでしまったりするほか、犬の体臭が強くなる症状があります。これは皮膚のバリア機能が低下することで、ニオイを発生させる菌が繁殖してしまうためと考えられます。

犬の脂漏症がみられる背景には、遺伝的なものから、菌や寄生虫による感染、アレルギー、内分泌、代謝、免疫によるもの、栄養の偏りなど、さまざまな要因から二次的に出るほか、さらに空気の乾燥や紫外線などの刺激などがきっかけとなり、かゆみが慢性的に続くことで皮膚のトラブルから脂漏症につながるケースもあるようです。

細胞の再合成の力が徐々に落ちていくシニア期になってから、脂漏症が起きるケースもあり、シーズーやプードル系の犬、レトリバー系の犬、柴犬、フレンチブルドッグなどは体質的に脂漏症が起きやすいともいわれています。

■アトピー

「アトピー」とは、皮膚のバリア機能が低下し、環境に存在するさまざまなアレルゲンに免疫が過剰反応してしまい、かゆみを伴う湿疹がよくなったり、悪くなったりを繰り返す状態のことを指します。(アトピーはアレルギー反応の1種です)
一般に犬のアトピーは、生後6か月~3歳の間に最初にその症状がみられることが多いとされています。
かゆみが出やすい部位も一定の傾向があり、眼の周り、口の周り、耳、耳の中、足先、指の間、脇、会陰部、肛門の周りということです。
最初は強いかゆみが起き、犬によっては脱毛も起きるケースや、その後も継続してかゆみや皮膚の炎症が起きることで、皮膚のバリア機能が低下してしまい、さまざまな皮膚トラブルに繋がっていきます。

アトピーは、皮膚のバリア機能が低下することで、ちょっとした刺激が激しい炎症につながるのが厄介なところ。
健康な犬であれば、皮膚トラブルにならないようなことでも、非常に激しいかゆみが出たりして、飼い主としても心苦しいと感じる方が多いです。

・ダニ、ノミなどの外部寄生虫
・皮膚に繁殖する菌類(マラセチア、真菌など)
・食べ物に含まれるアレルゲン
・環境に存在するアレルゲン(ハウスダスト、花粉など)
・ストレス
・静電気や摩擦などの物理的な刺激

■指間炎

犬の指間炎は、足先の指やその周辺で雑菌が繁殖してしまい、赤くただれてしまったり、強いかゆみ、脱毛などを引き起こしている状態です。
高温多湿の梅雨~夏にかけてはさらに雑菌が繁殖しやすい環境になり、雨の散歩の機会も増えるので、雨に濡れた足先を生乾きのままにしておくと、犬は濡れていることが気になって舐め続けてしまい、菌が増え、それがきっかけでかゆみが出てしまうこともあります。

犬が神経質な性格の場合、ストレスが溜まってしまうとつい足先を舐めてしまうという癖がついていることがあります。ストレスの転化行動として足先を舐めたり、かじったりすることでも指間炎を引き起こす可能性があります。

犬にとって足先は、気になった時に舐めたりかじったりしやすい場所。ですから、一度起こってしまうと犬はかゆみや違和感を持った時についつい舐めたり、カジカジしてしまい、治りが遅くなってしまうという厄介なトラブルです。

■真菌症

真菌症とはいわゆるカビに感染することにより生ずる病気のことを指します。
犬・猫ではMicrosporam(ミクロスポラム)と言われる種類のカビによる感染症が多いとされています。
真菌症は犬から人へ感染ることがあるため、犬が真菌症になってしまった場合は、日常の過ごし方で注意が必要になることもあります。
一般的に、真菌症になってしまった犬は脱毛・赤み(紅斑)・痒みが出ます。カビに感染してしまった被毛がボロボロになり、脱毛が始まるため、脱毛していることに気が付いて、動物病院を受診する飼い主さんもいるそうです。また、非常に痒みが出るためしきりに掻いているうちに全身にカビを広げてしまうこともあり、要注意のトラブルです。

犬の皮膚トラブルとシャンプー

基本的には、正しくシャンプーができれば皮膚トラブルをある程度予防することが可能です。
また、犬の皮膚トラブルの程度によっては、薬を飲まずにシャンプーだけでも十分に皮膚病を管理できることも。
皮膚のトラブルが多い子にとっては、シャンプーをきちんと行うことはとても重要です。

■犬のシャンプーと頻度

犬のシャンプーの頻度は、犬の体格や毛質にもよると思いますが、特に汚れが気にならない場合であっても、月に1~2回は行っているという方が多いです。
小型犬であればもう少し回数が増えるというご家庭もあるかもしれません。
それに加えて、外遊びから帰った後や、汚れやニオイが気になる時のほか、犬の皮膚トラブルがあってシャンプーでのケアが必要な場合は、さらに回数が増えるかもしれません。
皮脂が多い状態が続くと雑菌が増えやすい環境となり、ニオイや皮膚トラブルが起こりやすくなります。犬のシャンプーは皮脂汚れを落とすものとして意識して、しっかり皮脂汚れを落とし、そのうえでスキンケアや被毛ケアを行うようにしてくださいね。

■犬のシャンプーのポイント

まず、シャンプーの前にはブラッシングをして抜け毛をしっかり取り除くようにしてください。
抜け毛を適度に取り除くことで、洗い残しや毛のもつれの対策になるだけではなく、ドライヤーの時短にもつながります。

皮膚トラブルが多い子のシャンプーをするうえでポイントになるのが、すすぎ残しがないかを確認することです。
犬の皮膚トラブル対策としてのシャンプーは、すすぎ残しをしないことを意識するのが大切。
背中は指先を立てながら、その他は手のひらも使って全身をくまなくチェック。すすぎ残しがあると、ヌルっとした感触がするので、そこを再度よくすすぎましょう。洗い残しや、すすぎ残しや皮脂汚れが残っていると犬の皮膚トラブルの原因になってしまいます。

次に意識したいのが、ドライの行程。
吸水性のよいタオルを使用してタオルドライを行います。
犬の全身の水気をしっかり取り除いてあげてください。タオルドライがしっかりできていると、ドライヤーもだいぶ楽になりますよ。

ドライヤーを使って犬の被毛を乾かしていく際は、しっかりと風量があるドライヤーを使用すること。
温度は犬に当たる風が「少しぬるいかな?」と感じるくらいがベストです。片手でタオルドライを行いながら、犬の被毛を掻き分けながら乾かしていきましょう。また、温風が犬の顔や耳の中に当たらないように気を付けてください。
もっと詳しい犬のシャンプーのコツを知りたい方は、トリマーさんが紹介する犬のシャンプーのコツの記事もぜひ参考にしてみてください。

薬浴とは?獣医師が指導する治療としてのシャンプー

皮膚トラブルに悩む犬が動物病院を受診する時、薬としてシャンプーが処方されることがあります。動物病院で出されるシャンプーは薬として使われるもので、一般的に使用されるシャンプーとは性質が異なります。
動物病院で処方されるシャンプーは、皮膚の状態や皮膚炎やアレルギー、寄生虫など、それぞれの原因に合わせて成分や使い方が異なります。
正しく使用すれば治療に役立つ一方、強い成分を含むものもあるので、必ず仕様上の注意を守り、指導されたとおりの使い方をするようにしてください。

獣医さんに聞いてみた!シャンプーのあれこれ

■Q:1年ぶりに皮膚トラブルの症状が出ていますが、昨年処方された薬用シャンプーを使っても大丈夫ですか?

■ A:オススメできません。受診時の皮膚の状態に合わせて処方されたものですので、現在の犬の皮膚の状態に合っているかは分かりません。

それに、時間経過とともに有効成分が弱まっているかもしれません。
また、現在の皮膚トラブルの原因が前回と同じものとも限りませんので、動物病院で診断を受けることをお勧めします。

■Q:犬が嫌がって浸け置きができません。どうすればいいでしょうか?

■ A:犬とのコミュニケーションを取りながら、マッサージをするように揉みこむのもオススメです。

じっくり薬液をしみ込ませる必要があるにもかかわらず、ブルブルしてしまう子も多いですよね。そんな時は飼い主さんもマッサージするようにシャンプーを揉みこんで浸透のサポートをしてあげてください。(飼い主さんもじっとしている必要はありません)
また、使用しているお湯の温度が高すぎたり、低すぎたりすると犬が嫌がってブルブルする傾向にあるそうです。犬がまったりくつろげる温度を探して、ゆっくりできる環境づくりに取り組んでみたり、シャンプー前にたっぷり遊ぶor散歩をすることで疲れさせるのも一つの手…かもしれません。

おわりに

今回は犬の皮膚トラブルへの対策として取り入れることがあるシャンプーについて改めてご紹介しました。
皆さまの家の犬たちの普段のお手入れが、皮膚トラブルの予防につながります。毎年この時期に決まって皮膚トラブルを起こしてしまう子は、シャンプーやドライヤーをするときのポイントを意識することで予防できるかもしれません。