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2023.04.12
犬のヘルニアの症状とは?対策のための食事や暮らしの工夫をまとめました[#獣医師コラム]
犬の健康診断の時に勧められ、後日詳しく検査をしたらヘルニアになっていることが分かった…ということがあります。
実はヘルニアという病気にはいくつか種類があり、気を付けるべきことが異なります。今回は、犬の病気の中でも比較的よく見られる「ヘルニア」の中から「椎間板ヘルニア」を中心として、ヘルニアと分かった後の食事選びや過ごし方の工夫、なりやすい犬種や進行についてご紹介していきます。
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監修者:獣医師 菱沼 篤子
犬の栄養指導や犬の健康に関する専門知識を持つコンサル担当スタッフとして、さまざまな飼い主のお悩みを聞いている。
犬のヘルニアの種類について
犬のヘルニアにはいくつか種類がありますが、最も知名度が高いのは椎間板ヘルニアといわれています。
そもそも、ヘルニアとは臓器(組織)の一部またはすべてが、体内にある裂け目やつなぎ目、すき間から脱出する状態を指します。
この状態によって他の臓器や組織が圧迫を受けて、十分に働けなくなったり、体の外に脱出してしまうことで様々な症状がみられるようになります。
内臓のヘルニアは「脱腸」とも呼ばれることがあります。しかし、ヘルニアと呼ばれる病気の中には、腸以外が原因のこともあります。
生まれつき体内に裂け目やすき間があって起こる先天性のものと、外傷や激しい運動、加齢などが原因で起こる後天性のものがあります。
同じ「ヘルニア」とはいえ、異常が見られる部位や症状は全く異なりますので、それぞれご紹介していきます。
■椎間板ヘルニア
犬のヘルニアといえば、一般的には椎間板ヘルニアです。実は神経系の疾患の一種に分類されます。
激しい運動や老化、肥満などにより背骨と背骨をつなぐ"椎間板"に異常が発生し、背骨と背骨のクッションとなる椎間板が突出して神経に触れることでさまざまなトラブルを起こします。
圧迫されている神経に対応する場所に強い痛みが出るようになります。たとえば、腰に近い「腰椎」の椎間板ヘルニアであれば、足を引きずる、階段の上り下りを嫌がるなどの様子がみられ、進行すると、神経が麻痺して半身不随を起こすこともあります。
■鼠径(そけい)ヘルニア
足の付け根の鼠径部にあるすき間が広がって、皮膚の下にお腹側の臓器が飛び出すことで起こるヘルニアです。この時飛び出るものは臓器や脂肪などがあります。膀胱が飛び出る場合には排尿障害が見られ、腸が飛び出ると腸閉塞に繋がるケースもあります。先天的なものであることが多いようです。
■会陰(えいん)ヘルニア
会陰ヘルニアとは、骨盤と会陰部の間の筋肉が弱ることで筋肉の間に隙間が作られ、そこに便が溜まった直腸が入り込んでいる状態です。お尻周りが膨れあがり、排泄が難しくなります。重度になるとその隙間には直腸だけではなく、膀胱や小腸が入り込み、排尿なども困難になるケースも。この状態になると緊急手術が必要になります。
会陰ヘルニアは後天的なトラブルで、会陰部の筋力の低下は内分泌系の変化や腹圧の上昇、加齢のほか筋力の低下を引き起こすような病気などが関係していると考えられています。会陰ヘルニアは、中年~シニア期にあたる7歳以上の未去勢の犬に多く見られる傾向があります。
■臍(さい)ヘルニア
へそ(臍)の字を書きますが、読み方は「さい」ヘルニアです。
おへその穴から脂肪や内臓が飛び出している状態、いわゆる「出べそ」のことを指します。
お腹に強い圧力が加わり、へその穴のすき間が広がることが原因で発生するといわれています。内臓が引っ込まない状態の場合には、手術が必要となるケースも。先天的なものが多いようです。
そのほかにも、生まれつき横隔膜に欠損孔があって、本来お腹の中にあるべき腹部臓器の一部が胸の中に脱出してしまう「横隔膜ヘルニア」も比較的よく見られます。
■ うちの子のヘルニアはどんなものか正しく把握しよう
ヘルニアは、本来あるべき場所ではない場所に臓器や組織が飛び出している"状態"のこと。
ですから、ヘルニアの症状も、取るべき対策もヘルニアの種類によって全く異なります。
まずは、うちの子のヘルニアはどの部分に見られていてどんな状態なのか、動物病院で獣医師にしっかり確認してもらってください。
ここからは、犬のヘルニアで最も多いといわれている椎間板ヘルニアの対策についてご紹介していきます。
犬の椎間板ヘルニアの症状ってどんなもの?
背骨は、小さな骨が連なっていますが、その骨と骨の隙間を埋めるクッションのような役割を果たしているのが椎間板です。椎間板に強い力が加わったり、筋力の衰え、加齢などの理由によって変形が起こり、背骨の周辺の神経を圧迫することで、激痛が走ったり、上手く体を動かせなくなるなどの症状が見られるようになります。
詳しい症状については、進行度のグレード分けについてご紹介する際にまとめますが、以下のような症状が見られるようになり、飼い主が異変に気が付くことが多いようです。
■椎間板ヘルニアの初期症状
・背中(首から腰)を触ろうとすると嫌がる
・抱き上げるとキャンと鳴くようになる
・段差を前にしてためらうようになる
・(頸椎の場合)前足を浮かせるようにする、(腰椎の場合)後ろ足を引きずったり、立ち上がる時にフラつく
・寝ている時間が多くなる
■椎間板ヘルニアが多い犬種
ダックスフントやウェルシュ・コーギーと一緒に暮らしている飼い主さんは、この椎間板ヘルニアについてご存知の方が多いと思います。というのも、日本に暮らしているダックスフントの20%近くがこの病気を発症するともいわれています。
また、ダックスフント同様に短足胴長体形のコーギーでも多く見られる病気のひとつになっています。これらの犬種は日本国内でもよく見る犬たちですから、病気の知名度が高いのだと思います。
■他の犬種でもヘルニアになります
「うちの子はダックスでもコーギーでもないから大丈夫」とはならないのが、この病気のポイント。
椎間板ヘルニアという病気は、犬種もリスクのひとつではありますが、加齢や肥満、外傷も大きなリスクとなり、ダックス・コーギー以外の犬種でも起こりえます。
・トイプードル
・ビーグル
・シーズー
・ミニチュアシュナウザー
・フレンチブルドック
・パグなど
外傷が原因のパターンを除くと、椎間板ヘルニアになる犬は、室内で過ごすことがほとんどで、運動量があまり多くなかったり、食べるのが大好きで太りやすい子が多いです。
運動不足から肥満になり、体重増加が背骨への負担となってヘルニアを引き起こすと、痛みのためにさらに運動量が減るという悪循環に入ってしまうことも多いので、これらの犬と暮らす方は体重管理をしっかり行いましょう。
椎間板ヘルニアの診断について
獣医師的な話をすると、飼い主さんから「犬の歩き方がおかしい」「背中や脚に触れようとすると鳴くようになった」という相談を受けたからと言って、すぐに椎間板ヘルニアと診断ができるわけではありません。
他の病気の可能性も考えながら、検査を行って行くことになります。その際に、椎間板ヘルニアであることを確定させるためには、MRIやCTスキャン、脊髄造影などの検査が必要になります。
これらの検査設備は街の小さな動物病院の中には揃っていないことも多いので、椎間板ヘルニアが疑われる場合は、MRIやCTスキャンなどの設備がそろっている大きな動物病院へ、セカンドオピニオンとして受診してみるのも良いと思います。
犬の椎間板ヘルニアの「グレード」について知ろう
椎間板ヘルニアには、その重症度を分類する「グレード」と呼ばれる表現が使われることがあります。
椎間板ヘルニアでは、グレードⅤ(5)が最も症状が重いとされます。
【犬の椎間板ヘルニアのグレード分け】
グレードI(1) | 痛みのみ |
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グレードⅡ(2) | 少し麻痺があるがなんとか歩ける、再発が多い |
グレードⅢ(3) | 重度の麻痺(歩行・起立不可能) |
グレードⅣ(4) | 麻痺 排泄・排尿障害 |
グレードⅤ(5) | 麻痺が進み痛覚が消失し、自分での排泄がほぼできなくなる |
グレードⅠやⅡの段階であれば、投薬や注射などで痛みを和らげることができ、それだけでもかなり過ごしやすくなることも多いです。
ただ、グレードⅢ以降となると、運動量の低下や自分での排泄も難しくなる場面もみられるようになりますので、診断されたら、それ以上進行させないようにしていきたいところです。
椎間板ヘルニア対策にオススメ食材ご紹介
犬が椎間板ヘルニアと分かった時や、椎間板ヘルニアになりやすい犬と暮らしている方が、知っておくと役立つ栄養素とそれを豊富に含む食材についてご紹介いたします。
■青魚などに含まれるオメガ3脂肪酸(EPA)
EPA(エイコサペンタエン酸)は、青魚に多く含まれる脂質の一種で「オメガ3系脂肪酸」のひとつです。EPAの特長は、オメガ6脂肪酸と合わせて適量を摂取することで、抗炎症作用があるといわれていることにあります。
椎間板ヘルニアは、変形した椎間板が背骨の周囲の神経を圧迫することで激痛が起こります。しかし、ただ椎間板が神経を圧迫するだけでは強い痛みが起こらないことが分かっています。
変形した椎間板による神経の圧迫と、神経の炎症が同時に起こることで激しい痛みや麻痺が発生します。だから、炎症を抑えて痛みや麻痺をある程度コントロールする薬が動物病院で処方されます。それと同時に家庭での食事では、必須脂肪酸であるEPAを積極的に摂取したいですね。
【EPAを豊富に含む食材】
・イワシ
・マグロ
・サーモン
・フィッシュオイル
・緑イ貝 など
■ラム肉等に含まれるL-カルニチン
犬の椎間板ヘルニアのリスクのひとつとなるのが、犬の肥満。肥満によって犬の椎間板が変形してしまうことがあります。比較的若い犬であっても、肥満状態であれば背骨に普段がかかり、椎間板ヘルニアになりやすい傾向が見られます。
そこでオススメなのが、脂肪燃焼に深く関係しているL-カルニチンという成分。L-カルニチンは、脂肪をエネルギーとして代謝する際に使用される成分で体を動かす筋肉や心臓を動かす筋肉に多く存在しています。
L-カルニチンは、脂質と脂肪酸をエネルギー源として使用することができるように、脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ重要な運搬係となる成分です。
L-カルニチンを摂取しながら、適度な運動を取り入れることで体脂肪を効率的に燃焼させましょう。
体重管理は、椎間板ヘルニアをはじめとする、さまざまなトラブルに対する健康管理の第一歩です。
【L-カルニチンを豊富に含む食材】
・ラム肉
ラムを使った人気ドッグフード
■マグロの赤身、鶏肉に含まれるBCAAアミノ酸
最後にご紹介したいのが、BCAAアミノ酸です。BCAAアミノ酸は、犬が食事から摂取する必要がある「必須アミノ酸」の中のグループのひとつで、バリン、ロイシン、イソロイシンが含まれます。
この3種類のアミノ酸は、枝わかれするような分子構造をしているので、BCAA(Branched Chain Amino Acid=分岐鎖アミノ酸)と呼ばれています。
BCAAアミノ酸は、筋力を維持する際に役立つ栄養素といわれています。
シニア期の犬や椎間板ヘルニアと診断され、運動量が低下している犬は筋力がどんどん低下していき、体を支える筋肉が低下することでより背中や腰への負担を大きくすることがあります。そうなってしまう前に、BCAAアミノ酸を効率的に摂取して適度な運動を取り入れることで、筋力維持に努めましょう。
【BCAAアミノ酸を豊富に含む食材】
・マグロの赤身
・かつお
・さんま
・鶏肉
・牛肉
・卵 など
おわりに
今回は、犬に多く見られるトラブルのひとつ、「ヘルニア」の中から「椎間板ヘルニア」を中心にご紹介いたしました。
ダックスフントやコーギーなどに多いので、犬種特有のトラブルというイメージを持っている飼い主さんもいるようですが、ほかの犬種でも、リスクとなる要因があれば発症する可能性があります。
進行すると手術が必要になったり、車いすが必要になるケースも少なくありませんので、椎間板ヘルニアが分かったら「それ以上進行させない」ということを意識しつつ、家庭では食事面を意識してながら普段のQOL(Quality Of Life)を高めてあげたいですね。