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2023.10.23
【#大きな犬と】心臓病を専門に診る獣医師に聞く!心筋症の原因から闘病生活まで
同じ犬でも小型犬と大型犬では、育て方や食事など気をつけたいポイントがちょっと違います。でも世の中にある知りたい情報は小型犬向けが多いのが少々残念…。そんな飼い主さんのために、大きな犬にフォーカスした、健康や食事や遊びといった暮らしの情報を集めて紹介します。(POCHI編集チーム・大きい犬班)
今回のお役立ち情報心臓病
犬と猫の心疾患のみを10年以上診ている伊藤大輔獣医師に、大きな犬がかかる可能性がある心臓病について、その症状や治療法、食生活や運動を含む日常生活の注意点などを教えていただきます。
大きな犬は心臓病になりやすい?
心疾患に詳しい伊藤大輔獣医師によると、小型犬と大型犬では、かかる可能性がある心臓の病気は異なるそうです。
「小型犬は高齢になるにつれて僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすいことが知られています。僧帽弁閉鎖不全症は、犬でもっとも発症例が多い心疾患です。
大型犬の場合は僧帽弁閉鎖不全症よりも心筋症の方が一般的です。ただ、大きな犬にとって、命にかかわる病気として重要度が高いのは悪性腫瘍(がん)で、小型犬の僧帽弁閉鎖不全症ほどに、大型犬に心筋症がたくさん見られるわけではありません」
大型犬がかかりやすいのは、拡張型心筋症
「心臓は、簡単に表現すれば“筋肉の袋”です。血液という液体が入っている筋肉の袋が、伸び縮みしポンプの働きをしていますが、その筋肉がやられてうまく働けない状態が、心筋症です」(伊藤獣医師)
犬の心筋症には、拡張型心筋症や肥大型心筋症など複数のタイプがあります。
「心臓を風船に例えると、拡張型心筋症は風船が膨らんだ状態に、肥大型心筋症は風船そのものの厚みが増して分厚くなった状態になると、考えてください。
拡張型心筋症では、心臓の筋肉の動きが悪くなり、血液を送り出しにくくなった結果、心臓が血液の渋滞を起こして膨らんでしまうのです」(伊藤獣医師)
猫では肥大型心筋症は多く見られますが、犬ではあまり発症しません。
大型犬の主な心疾患と言えば、拡張型心筋症です。
「拡張型心筋症は、たとえばドーベルマン、ボクサー、グレート・デン、アイリッシュ・ウルフハウンドなどの大型犬によく見られます。日本で飼育頭数が多い、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーでも見られます。
特定の犬種に多いことから、発症には遺伝子の関与が疑われています。ただし、心筋症の発症メカニズムは、他の疾患や感染症、環境要因なども絡んでいてとても複雑です。遺伝は、数ある要因のうちの一部だと認識するとよいでしょう。
また、グレインフリーのドッグフードが拡張型心筋症の原因になるという情報もありますが、確定した話ではありません。拡張型心筋症と診断された犬の多くがグレインフリーフードを食べていたという報告が発端ですが、その後に決定的な証拠は続いていません。逆に、実験的にグレインフリーフードを犬に与えてみても心臓に明らかな問題は起こらなかったという報告もあります。
個人的には、大きな犬たちが喜んで食べ、品質も問題ないものなら、グレインフリーやグルテンフリーのフードは心臓のことは気にせず与えてよいと思っています」(伊藤獣医師)
拡張型心筋症の症状
「犬の心臓病の初期は無症状です。拡張型心筋症だけでなく小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症も含めて、飼い主さんが症状に気づいたときにはある程度進行していることが多いと思ってください」と、伊藤獣医師。
拡張型心筋症が進行すると、運動をしたがらない、元気がなくなる、食欲が落ちるといった症状が見られます。
また、腹水や肺水腫、咳や呼吸困難が現れたり、突然死を起こすこともあります。
「若齢での発症もありますが、一般的には拡張型心筋症は加齢とともに見つかりやすくなります。
拡張型心筋症と診断されると、病状に応じて強心剤や利尿剤などの投薬が開始されます。僧帽弁閉鎖不全症は近年、外科手術も行われるようになりましたが、拡張型心筋症では外科治療は選択肢にありません。病気の進行を遅らせたり、症状を和らげたりすることを目的とした、内科療法が中心です。
拡張型心筋症が見つかっても経過はさまざまです。突然死のようなパターンがある一方で、数年にもわたって元気にしている犬もいますので、飼い主さんには悲観しすぎずにいていただきたいと思います」(伊藤獣医師)
心筋症を早期発見するには?
うちの大きな犬が心筋症かどうかを早期に発見するには、どうすればよいのでしょうか?
「心筋症の初期に、飼い主さんが犬の様子を見て気づくのは難しいです。心筋症の早期発見にもっとも役立つのは、心臓のリアルな動きや形状がわかる超音波検査(エコー検査)です。
超音波検査で拡張型心筋症が発見された犬の飼い主さんは『え!? うちの子本当に心臓病なんですか? こんなに元気なのに……』と、よく言われますね。
心臓にトラブルが生じているからと言って、すぐに具合が悪くなるわけではありませんし、何でも早期発見が正義とも限りません。とはいえ、犬の拡張型心筋症については、症状が出ていない段階からでも治療の選択肢があるのは事実です」(伊藤獣医師)
心筋症の早期発見のために、大きな犬の場合は5歳を過ぎたら、健康診断(ドッグドック)などで心エコー検査を追加項目に入れておきましょう。
シニアとまでは言えない5歳の頃に異常が見つからなかったとしても、うちの子の心臓の正常な状態のデータを得られることにも意義があります。
心臓病でも、大きな犬との毎日を楽しく!
伊藤獣医師は、飼い主さんから心臓病の犬の運動について聞かれることが多いそうです。
「心臓病と犬の運動の関係を調べた研究は多くないので、確たることは言えません。けれども、たとえ心臓病にかかっていたとしても、一般家庭の犬がする程度の運動なら大丈夫なケースは多いですね。もちろん、判断は病状によって変わるので、まずはきちんと心臓の状態を診断してもらうことが大切です。
人間の医学では、運動には、足腰や免疫機能の改善をはじめ、各種のがん、糖尿病、認知症、便秘、血栓に対する有益な効果があると報告されています。運動のデメリットだけでなく、メリットも含めた両面から判断することをおすすめします。
私自身、実家にいた心臓病の犬の運動について悩んだ経験があります。急変への不安はありましたが、運動好きだった犬の気持ちを考え、リスクを覚悟して散歩をさせていました。
仮に心臓病の犬が運動後に倒れたとしても、真の原因は『運動で急変するほど心臓が悪くなっていたから』であって、『運動させたから』ではありません。
残念ながら運動を控えても心臓病は治りませんから、運動以外の何かで急変するリスクはついてまわります。
飼い主さんとしてはうちの子の調子が悪くなるのを恐れる気持ちはよく分かりますし、対処できることはしてあげて欲しいですが、飼い主としては『どうしたらうちの子は一番幸せか』という視点も大切ではないでしょうか」(伊藤獣医師)
伊藤獣医師が言うとおり、たとえ心臓病になったとしても、飼い主さんと大きな犬がもっとも幸せになれて、もっとも納得のいく生活スタイルを考えながら笑顔で毎日を過ごしたいものです。
ライター:臼井京音
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取材協力: 伊藤大輔 獣医師
獣医師。犬と猫の心臓病を専門として、複数の動物病院で診察を行っているほか、飼い主向けの情報発信も行っている。
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