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2023.11.13
犬と固有生物の共存を目指す。ロボキーウィ開発ストーリー~南半球のDog's letter~
世界の様々な地域に順応して暮らしている犬たち。
ところ変われば犬とのライフスタイルも変わります。日本とはちょっと違う?共通してる?目新しいドッグライフ情報を、自然豊かな南半球に位置するニュージーランドからお届けします。
豊かな自然が残るニュージーランド。街と自然の距離が近いと聞くと、なんだか快適そうなイメージがあるかもしれませんが、そこには問題もあるそうです。
例えば、野生動物と、犬たちが出会ってしまうこともしばしば。なんと、ニュージーランドのもともとの生態系には、犬よりも大きく、強い動物がいないため、犬が一方的に野生動物を脅かす「加害者」になってしまうことも多いのだとか。
野生動物も、犬たちも、犬と暮らす人も守るためには、どうしたら良いのでしょうか?現地の研究者たちがこの問題に立ち向かいました。犬と暮らす私たちにも他人事ではない、自然との共生に関する取り組みをご紹介します。
独自の生態系を保護する取り組み
約8000万年前に大陸と分離し、長年孤島だったニュージーランドには、独自の生態系が見られます。
もともとコウモリとクジラ以外の哺乳類が生息せず、天敵が存在しなかったため、鳥類とくに走鳥類と呼ばれる飛べない鳥の楽園となりました。
しかし、入植者が持ち込んだ生物や森林の伐採によって環境が大きく変化。さまざまな生物が絶滅に追いやられました。
そうした悲しい歴史から、現在、ニュージーランドは国をあげて自然保護に熱心に取り組んでいます。
ニュージーランドには犬と一緒に遊べる公園や森がたくさんある一方、野鳥保護区など犬連れが制限されているエリアも少なくありません。
走鳥類の代表格である国鳥キーウィは毎年2%ずつ数を減らしており、手厚い保護の対象になっています。
残念なことに、犬が野生のキーウィを脅かす事態もたびたび起きています。
キーウィのヒナにとっての脅威はイタチ類(これも外来生物です)ですが、成鳥の死因に関しては、実に7割がノーリードの犬に襲われたり、犬による干渉のストレスによる影響から…という衝撃的なデータもあるのです。
キーウィの生息地近くで飼育されている犬には、キーウィを襲わないようしっかり訓練することが必要、という意見が多くなっています。
そのために開発されたのが、今年8月に試作品がリリースされたロボキーウィなのです。
本物そっくりに動くロボキーウィで犬を訓練
ロボキーウィは、森林や林業における科学技術のリサーチを行う政府機関サイオン、国立キーウィ孵化場、カンタベリー大学工学部による共同プロジェクト。
従来、犬の訓練にはキーウィの剥製が使用されていましたが、剥製はなかなか手に入らないので数が常に不足していました。そのうえ剥製自体は動かないため、興味を示さない犬も多かったそうです。
今回工学部の学生が主体となって開発したロボキーウィは本物のキーウィに近い動きをすることが特徴。
実験では犬がロボキーウィに強く反応し、訓練の効果が高いことが証明されました。
「森の茂みの中にレールを敷き、その上に3Dプリンターで作成したキーウィのモデルを設置。リモコンで動かす仕組みです。レールは軽量で簡単に移動が可能です」
こう話すのはプロジェクトに参加して学生への指導を行ったサイオンの科学者カール・モールヴィングさん。
犬には訓練用の首輪を装着させ、ロボキーウィに触れようとすると首輪が自動で振動や音を発生させて不快感を与えるというもの。
これを繰り返すことでキーウィを襲うと良くないことが起こる、ということを覚えてもらうのです。
犬がのびのび暮らせる環境を守る
ロボキーウィは最終的な改良と実験が完了次第、政府の許可を得て正式に採用される予定です。
まずは50個の試作品を作り、キーウィを襲わないための訓練を実施するドッグトレーナーに配布。
いずれはニュージーランド全国で使用できるように量産したいのだとか。
「キーウィ生息地近辺に暮らす家庭犬、狩猟犬、牧羊犬の飼い主には、ロボキーウィを使って定期的に犬を訓練することが推奨されています」とカールさん。
犬がキーウィを襲って致命傷を負わせてしまった場合、政府機関のDOC(環境保護局)が告訴をし、裁判所から飼い主、犬ともに厳しい処分が下される可能性があります。
これはほかの固有生物や家畜を脅かした場合でも同様。
豊かな自然の中、のびのび生活しているニュージーランドの犬たちですが、そうした環境を守るためにはルールに従うことが大前提です。私たち飼い主も気を引き締めなくては、と考えさせられました。
ロボキーウィが野生動物と犬、そして人々との共存の助けとなってくることに期待です。