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2024.06.13

犬の運動量によって適したドッグフードは変わります!注目するべきポイントとは?【管理栄養士監修】

犬の運動量によって適したドッグフードは変わります!注目するべきポイントとは?【管理栄養士監修】

犬の食事は、健康的な毎日が過ごせるよう、必要な栄養成分が計算された総合栄養食を選ぶ方が多いと思います。
しかしパッケージに記載された量を与えているのに太ってきたり、逆に目安量を食べきることができなく痩せてきたりという子もいます。

原因のひとつに、犬による運動量の違いが考えられるでしょう。身体を動かすことが好きな子もいれば、ゆっくりと家にいることが好きな子もいます。
表示されている給餌量は、あくまでも一般的な量であり、犬の運動量にあわせて食事を選ぶことが重要なのです。

本記事では、管理栄養士であり、ペット栄養管理士の資格も持つ筆者が、犬の運動量による必要栄養素の違いを解説します。犬が健康に暮らせる食事の内容に不安がある方は、ぜひ参考にしてみてください。

すべての犬に必要な栄養素

運動量にかかわらず、すべての犬は5大栄養素の摂取が重要です。
それぞれの栄養素について働きや含有量が多い食材を紹介します。

 

タンパク質

タンパク質は、犬のエネルギー源となる栄養素です。
複数の種類のアミノ酸が連なり構成される成分で、体内の組織を合成し、あらゆる場所に存在します。
主に筋肉や毛、皮膚などの構造性組織と、ホルモンやDNA、補酵素などの機能性組織の役割を持ちます。また、免疫グロブリンと呼ばれる抗体の構成成分でもあるため、免疫力を高め細菌やウイルスから身体を守ることにも有益です。

タンパク質は体内で合成できる非必須アミノ酸と、体内で合成できず食事からの摂取が求められる10種類の必須アミノ酸から合成されます。
タンパク質を多く含む食材は、動物性タンパク質の肉や魚と、植物性タンパク質の豆類や穀物があります。

 

脂質

脂質もタンパク質と同様、エネルギー源となる栄養素です。
脂質はタンパク質の約2.5倍効率よくエネルギー代謝されるほか、体温維持や細胞膜の構成成分、ホルモン形成、脂溶性ビタミンの吸収に関わります。

脂質は、構造の違いにより飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類され、さらに不飽和脂肪酸は一価と多価に分けられます。犬ではオメガ3系とオメガ6系の多価不飽和脂肪酸が食事から摂取する必要がある必須脂肪酸です。
主なオメガ3系脂肪酸にはDHA、EPA、α-リノレン酸があり、魚油や亜麻仁油に多く含まれます。オメガ6系脂肪酸にはリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸があり、ひまわり油やボラージオイルから摂取できます。

 

炭水化物

炭水化物は、消化吸収されエネルギー源となる糖質と、消化できない食物繊維に分類されます。
糖質は、膵臓から分泌される膵アミラーゼにより分解され、小腸で吸収後最も早くエネルギーとして活用します。
ドッグフードで使用されることが多い食材は、小麦、玄米、ジャガイモなどが代表的です。

食物繊維は、腸内環境を整え、血糖値の上昇を抑制、不要な栄養素の吸収阻害、便通改善に効果的です。ポテトファイバーやマトポマス、ビートファイバーなどが使われます。

ドッグフードでの注意点は、人の食品で炭水化物と表記されるのに対し、表記のルールが異なる点です。
ペットフードの公正競争規約の必要表示項目では、成分を表示するよう定められおり、記載が義務付けられた成分に「粗繊維」が含まれます。
粗繊維とは、不溶性食物繊維を指す指標であるため、炭水化物のうち、糖質や水溶性食物繊維の量が含まれていない成分値です。

 

ビタミン

ビタミンは、生命維持やエネルギー代謝を促進する補酵素の役割があります。生成量が少ないまたは生成できない栄養素であり、食事から摂取が必須です。

ビタミンの要求量は、ほかの栄養素や、年齢、生活環境、運動量などの要因で変わるため、犬にあった摂取量を確保できる総合栄養食ドッグフードを選ぶのがオススメです。

犬に必要なビタミンは、A、E、D、K、B群(B1、B2、葉酸など)です。補足としてヒトが必要なビタミンCは、犬の体内で合成できるため、必須ビタミンではありません。

野菜や肉類、魚介類、大豆、海藻類など多くの食材にさまざまなビタミンが含まれます。
ビタミンにより機能の違いや同時摂取による相乗効果が期待できるため、さまざまな食材を組み合わせた摂取がよいでしょう。

 

ミネラル

灰分や無機質と呼ばれるミネラルは、骨や歯、体液に存在し、浸透圧やpH調整、神経伝達の役割がある酵素やホルモンを構成する成分です。

犬は、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ヨウ素など20類以上のミネラルが必須とされています。

肉や魚、野菜、海藻など多くの食材にさまざまな種類が含まれるため、ビタミンと同様に複数の食材を組み合わせて摂取すると吸収、利用効率を高められるでしょう。

犬の運動量によって変化する栄養素とは?

ヒトでも活動レベルにより摂取すべき栄養量の基準が異なるのと同じく、犬も運動量の差による必要な栄養素に違いがあります。
運動量が多いアスリート犬と、比較的運動が苦手な犬が多い小型犬での栄養素の違いを比べていきます。

 

運動量が多いアスリート犬の場合

運動量が多いアスリート犬は、消費量も多いため、エネルギー源となるタンパク質やカロリーの摂取が重要です。

 

■筋肉維持のための高タンパク質食

体組織を構成するタンパク質は、筋肉維持のために多く摂取すべき栄養素です。
長時間走ったり、フリスビーをキャッチするためにジャンプしたりと身体を動かすアスリート犬は、筋肉の回復、再生に役立つタンパク質を多く取り入れた食事が必要になります。

タンパク質が体内で活用されるには、摂取された必須アミノ酸のバランスが重要です。
アミノ酸は最も少ない量にあわせて使用されるため、1つでも不足していると、摂取量が多いアミノ酸は使われることはありません。これは、必須アミノ酸が桶の一枚一枚を作る桶版に例えられ、「アミノ酸の桶理論」と呼ばれています。

食材により、含まれるアミノ酸の種類が異なるため、複数のタンパク質源の食材を満遍なく摂取できるとよいでしょう。ドッグフードでは、チキンやサーモン、ラムなど同じメーカーの違う味をローテーションする 方法もおすすめです。

 

■体力の源になる高カロリー食

運動量が多い犬は消費カロリーが多いため、高カロリーな食事を選ぶことが重要です。
良質なタンパク質をたっぷり使った、お肉の使用量が豊富なドッグフードであれば、タンパク質と脂質をアスリート犬に適したバランスで取り入れられる傾向にあります。

また、消化性の低い繊維質が少ないドッグフードがおすすめです。摂取後の血糖値が上昇しやすいジャガイモやかぼちゃなどの高GI食品を取り入れるのもよいでしょう。

一般に、100gあたり360kcal以上のドッグフードが高カロリーといえます。エネルギー代謝を促進するビタミンB1やB2の摂取も同時にしましょう。カロリーが豊富に含まれているドッグフードは、小食の犬やハイシニア犬、食が細くなって痩せている犬にも適していることがあります。

 

運動が苦手な小型犬の場合

活動的な子が多い傾向にあるジャックラッセルテリアやミニチュアピンシャーなどの犬種や、犬それぞれの性格により運動量に違いはありますが、小型犬は中~大型犬と比較すると、比較的運動量が少なく、家の中でもある程度運動量を確保できる子が多い傾向があります。
運動が苦手な子は、筋肉量の低下や肥満にならないように気をつけましょう。

 

■肥満予防の低カロリー、低脂質食

食が細く痩せている犬を除き、運動量が少ない小型犬や、足腰が衰え、動きがゆっくりになったシニア犬 は、脂質や糖質を抑えた低カロリーのドッグフードがよいでしょう。
低カロリーのドッグフードは血糖値を上げやすい糖質の含有量が少ない傾向があります。筋肉低下につながらないよう、脂肪分の少ない赤身肉やささみ、胸肉、魚介類などのタンパク質源をメインに使用した食事がおすすめです。

繊維質の多い海藻や根菜を取り入れた、ボリューム感ある食事も低カロリーなうえ、満足感を得やすいでしょう。

 

■関節を強化するオメガ3脂肪酸やグルコサミンの摂取

小型犬は、膝関節が弱く、膝蓋骨脱臼(パテラ)になりやすい特徴もあります。
関節ケアができるオメガ脂肪酸やグルコサミンの摂取で、関節の炎症を和らげ、軟骨組織の強化に効果的です。
必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸は、抗炎症作用があり、アジやカツオ、サバなど青魚の脂質に含まれます。

また、グルコサミンやコンドロイチンなどが構成する軟骨成分のプロテオグリカンは、骨の衝撃を吸収する役割があり、関節の動きを滑らかにするでしょう。
ドッグフードでは、DHAやEPA、グルコサミンを添加している旨が記載されている商品もあります。

犬の運動量に関するよくある質問

■運動量が多すぎるのはよくない?

運動量が多すぎることは「よくないこと」ではありません。
ヒトでもスポーツ選手や筋肉トレーニングする方は、一般的よりも多く運動するように、活動的な犬には、運動で負荷のかかる心臓、関節、骨へのケアを意識すれば問題ないでしょう。

食事での栄養素の摂取も重要ですが、運動量が多いとアドレナリンが出過ぎて興奮状態が続きやすい傾向にあると言われることがあるようです。しかし、運動することでストレスが解消され、体力を消費することで大人しくなる子が多いのも事実。
習性として運動量が多く、作業意欲が強い犬種は、家庭犬でもメリハリをつけた接し方がポイントになります。
ドッグスポーツでは、そういった興奮やメンタルのコントロールも含めてトレーニングを行うことが多いと思います。
遊ぶ時と家でまったり過ごすときのオンオフが上手くできない子は、スポーツを通して成長し、トレーナーさんとの二人三脚で改善されることもあります。

落ち着いてリラックスできる時間も十分に確保できれば、自律神経を整えることにもつながりますよ。

 

■散歩嫌いな犬の運動方法は?

知育おもちゃを使った、脳を活性化する遊びや、飼い主の方とコミュニケーションが取れる遊びで運動できます。
散歩嫌いな犬は外の環境に不慣れであり、音や振動への恐怖、コンクリートの感触や気温差が苦手、リードで引っ張られるのが嫌いという場合もあるでしょう。
芝生や土などの肉球に負担がかかりにくい環境や室内ドッグランの活用 もおすすめです。

取ってこい、引っ張りっ子、トリックを教えるなど家の中でできる遊びも多く、信頼関係を築けるメリットもあります。
散歩にこだわり過ぎず、飼い主の方が犬と楽しく遊ぶことで運動不足解消につながり、より健康的な生活が送れるでしょう。

まとめ

本記事では、犬の運動量による必要栄養素の違いを解説しました。
活発な犬にはエネルギーになる食事、運動が苦手な犬には肥満にならない食事と気を付けるポイントが異なります。

運動量以外にも年齢や体格、病気の有無などさまざまな要因を考慮し、犬が健康に暮らせる栄養バランスを考えた食事にしましょう。

ペット栄養管理士・管理栄養士:村瀬由真

*1 4年制大学の管理栄養学科を卒業。食事と栄養の知識を活用し、動物病院や給食委託会社での勤務を経験。現在はチワワや猫たちと一緒に暮らすライター