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2022.09.08
ドッグフードで大人気、ニュージーランド産の原材料のヒミツとは? ~南半球のDog's letter~
ニュージーランドは食物自給率200%以上を誇る農業・酪農・漁業大国。オーガニックファームも多く、おいしくて安全な食材が手に入ります。日本ではちょっと見かけない食材から、独自の工夫を施して生産されている食材まで種類はさまざま。いずれも雄大な自然の中で育っていることは共通していますが、中でもドッグフードの材料としても特に人気が高い、ニュージーランド産の主な原材料を3つご紹介します。
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この記事を書いた人:グルービー美子
ニュージーランド・オークランド在住のトラベルライター。JAL機内誌やガイドブック「地球の歩き方」などに寄稿。子供の頃から柴犬と暮らし、現在はサビ猫のお世話係。趣味はサーフィン。
緑イ貝(ミドリイガイ) ~Green-lipped Mussels~
緑イ貝は、ニュージーランド固有のムール貝の仲間。地元ではグリーン・リップド・マッスル(Green-lipped Mussels)と呼ばれ、その名の通り貝殻のフチが緑色なのが特徴です。
ニュージーランド全土の海岸に生息し、地方の岩場へ行くとびっしりはりついている様子が見られてなかなか圧巻。スーパーマーケットでは通年1kg3~5ドル(240~400円)程度で購入でき、安くておいしい庶民の味方。漁師でなくとも1日あたり1人25~50個まで採取してよいルールなので、個人で採ることも珍しくありません。ニュージーランドではかなり身近な食材といえるでしょう。
ドッグフード用も含み、市場に流通しているのは天然ではなく養殖の緑イ貝です。主な養殖場はコロマンデル半島、マールボロ・サウンド、ゴールデン・ベイ、スチュワート島など。どこもきれいな海の少し沖合いにロープを張り、化学添加物などは使わず、自然に近い状態で育てられます。基本的には貝の生息地をロープで形成するだけなので環境破壊につながりにくいのも利点。貝が育つところにはさまざまな魚も集まるため、養殖場の周辺は絶好の釣りスポットにもなっています。
年々海外からの需要も高まっていますが、質のよい緑イ貝を育てるためには何よりも海がきれいなことが大原則。そのため養殖業者は国の海洋研究機関などと提携し、環境維持に努めています。
鹿肉(ベニソン)~ Benison~
ニュージーランドで養鹿は一大産業。全国に約1400の鹿牧場が存在し、2020年の調べでは83万頭以上の鹿が飼育されているそうです。
牧場があるのは北島中央部、南島カンタベリー地方といったハイカントリーと呼ばれる山間のエリア。自然の地形を生かし、山をフェンスで囲って放牧されています。
各牧場の規模によりますが、面積は250~1000ヘクタールが一般的とか。ホルモン剤や抗生物質などは一切使用せず、広大な牧場内を駆け回って育った鹿は健康で、ほどよく締まった筋肉を有するおいしい赤身肉になります。
ニュージーランドでは鹿に限らず、羊、牛、鶏といったほかの家畜も広々とした土地で飼育されています。この国ではアニマル・ウェルフェア(動物福祉)が非常に大切で、ペットだけではなく、家畜にも道徳的な扱いが求められます。餌や水を十分に与える、快適な生活環境を整える、病気やけがをしたら医療を施すといった基本的な行為はファーマーの義務。さらに環境保護にも注力しており、ファーマーと政府が協力のもと、持続可能な農業・酪農を目指しています。
サーモン~Salmon~
脂ののったキングサーモンはニュージーランドで最もポピュラーな魚介類のひとつ。グリルやフライ、チャウダーなどでいただくほか、日本食レストランでは刺身や寿司ネタによく使われ、最近はイクラも「サーモンキャビア」と呼ばれて親しまれています。
天然ものを釣ることもできますが、市場に出回っているのは養殖が一般的。ニュージーランドは1970年代からキングサーモンの養殖に取り組み、現在世界シェアの約85%を占めるまでに成長しました。
キングサーモンが育つにはきれいな水が不可欠で、主に南島のマールボロ・サウンドやアカロア湾に海水ファームが設けられています。
ユニークなのは南島中央部プカキ湖にある養殖場。これは世界でも珍しいサーモンの淡水ファームで、氷河の雪解け水が使われているのが特徴。
飼育環境は徹底的に管理され、GMOフリーのエサを毎日手で与えて健康状態を確認するなど、繊細に育てられています。
雄大な自然を眺めるだけではなく、守りながらも暮らしの中で役立てていく、そんな共存を目指して農業、水産業にかかわる人々は日々努力を続けています。
もちろん、この国で行われているすべての取り組みがうまく行っているわけではありません。でも、試行錯誤を繰り返しながら少しずつでもより良い食材を生み出せるように努力するこの国の生産業者の真面目さには、少しだけ日本に近いものを感じています。
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ニュージーランド国内で普通に流通している食材であっても、さまざまな工夫を凝らして持続可能性を探って作られていることがよく分かりますね。ちなみに、ベニソンは家庭料理でも使われるそうで、ニュージーランドには「世界一のベニソンパイ」を自称するお店もあるとか…。