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2024.08.21
競技引退犬を家族に!グレイハウンド専門の保護団体とは?~南半球のDog's letter~
世界の様々な地域に順応して暮らしている犬たち。
ところ変われば犬とのライフスタイルも変わります。日本とはちょっと違う?共通してる?目新しいドッグライフ情報を、自然豊かな南半球に位置するニュージーランドからお届けします。
保護犬にはさまざまなバックボーンを持つ子たちがいます。
ニュージーランドの保護犬たちの中には、アスリートとして活躍してきたり、ドッグスポーツのためのトレーニングを受けてきた犬たちの姿も。
日本ではあまり見かけることがない「競技引退犬」というストーリーを持つ犬たちを専門に保護し、新しい家族を見つける取り組みが行われています。
今回は、競技引退犬たちが新たな犬生を送るためのサポートを行う、「メイ・ハウンズ」の活動をご紹介します。
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この記事を書いた人:グルービー美子
ニュージーランド・オークランド在住のトラベルライター。JAL機内誌やガイドブック「地球の歩き方」などに寄稿。子供の頃から柴犬と暮らし、現在はサビ猫のお世話係。趣味はサーフィン。
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平均3~4歳で引退する競技犬
ニュージーランドにはドッグレース場が6カ所あり、現在もグレイハウンド・レーシング協会主催の競技会が行われています。
レースに参戦するのは、スプリンターとして知られるグレイハウンド。
最高時速70kmで華麗な走りを見せ、人々を魅了するグレイハウンドですが、競技生命は短く、平均3~4歳で引退することになります。
多くの方は、「この子たちはどうなるの?」と心配されると思います。
キャリアを終えたグレイハウンドたちの里親を見つけ、幸せなペットライフを送れるよう支援しているのが、競技引退犬専門の保護団体。
今回は、オークランドで活動する保護団体「メイ・ハウンズ」で話を聞いてきました。
実は…家庭犬向きの性格の子が多い「競技引退犬」
「グレイハウンド専門の保護団体はニュージーランドに5つほどあります。私たちメイ・ハウンズはその中でも比較的新しい小規模な団体で、2016年にグレイハウンドを飼っている友人同士が集まって活動を始めました」
そう話すのは同団体代表のミシェール・ステビングさん。
子供の頃から犬と暮らし、2013年に初めて競技引退犬を引き取ったことから、保護活動に興味を持つようになったそうです。
「私自身はすらっとした曲線美を持つアスリートとしてのグレイハウンドに魅力を感じています。性格はとても穏やかで、常にパワフルで活動的というわけではないので、あらゆる環境になじみ、一緒に暮らしやすい思います。走るのが大好きな半面、ずっと静かにもしていられる、そのギャップがたまらないですね」
現役時代にトレーナーの犬舎でほかの犬たちと共同生活を送った経緯から、精神的に落ち着いている子も多く、子どもやほかの動物との同居、多頭飼いに適性があると話すミシェールさん。
また、普段はくつろいで寝ている時間が長いため、大型犬ながら庭のないアパートでも十分に暮らしていけるといいます。
「ドッグランなどで運動させれば、家が狭くても意外と問題ありません。そもそもグレイハウンドは活動時間が短く、家ではずっと寝ていますから(笑)。短毛のシングルコートで手入れが簡単なのも利点です。定期的にトリミングに連れて行く必要はないし、シャンプーしてもタオルドライだけであっという間に乾きます」
競技犬から家庭犬となるための流れ
グレイハウンドはどのようなプロセスを経て家庭犬になるのでしょうか。
メイ・ハウンズではレーシング協会や犬舎から競技引退犬を受け取ると健康診断などのケアの後、預かりボランティア宅へ送り、4~6週間ほど家庭犬となるトレーニングを行うそうです。
犬舎と一般家庭とでは生活リズムが異なるため、家庭犬の暮らしをしっかり体験させることが重要なのだとか。
「その間に各犬の性質を見極め、里親希望者とのマッチングに活かします。里親希望の申込みがあるとスタッフがヒヤリングを行い、家庭訪問をして飼育環境をチェック。それをクリアしたら条件に合うグレイハウンドを紹介してトライアル、譲渡へと進みます。ワクチン接種とマイクロチップ装着を済ませた犬を新しい首輪、リード、マズル、獣医師の健康手帳を付けてお渡しし、譲渡料として380NZドル(約3万4200円)支払っていただきます」
ほかの保護団体との大きな違いは、里親希望者へのサポート期間の長さ。
一般的なグレイハウンドは新しい環境に慣れるまでに3週間を要し、完全にリラックスして「自分はこの家の子」だと理解し始めるまでに3カ月はかかるそう。
ゆっくり時間をかけて少しずつ家族になっていく──飼い主にはそんな過程もあるよねと思える心の余裕が求められます。
メイ・ハウンズのスタッフは里親希望者に必要なアドバイスをし、グレイハウンドとの新しい暮らしをバックアップしています。
新しい家族を求めてアメリカに渡る犬も
レーシング協会やほかの保護団体と連携・協力して活動しているメイ・ハウンズ。
全ての犬の里親を国内だけで見つけるのは難しく、この数カ月間で協会から60頭ほどのグレイハウンドが里親を求めてアメリカに旅立っているそうです。
「コロナ禍以降、経済状況の悪化もあり、廃業するグレイハウンドの犬舎も出てきました。メイ・ハウンズでも競技未経験のまま引退した生後18カ月程度の若い競技犬を何頭も引き取っています。ニュージーランドは小さな国だし、新しい家族を探している保護犬はグレイハウンドだけではないので、里親探しにも限界があります。アメリカではぜひグレイハウンドと暮らしたいという方が多いようで、今のところ順調に里親が見つかっています」
かつて、アメリカではドッグレースが盛んにおこなわれていましたが、現在はほとんどの州で賭博を伴うレースが禁止されています。
それに伴い、競技を引退したグレイハウンドと暮らしたいという人と犬のマッチングも難しくなったことから、ニュージーランドの競技引退犬に注目が集まっているのだそうです。
「グレイハウンドが幸せになるなら、ほかの国で家族として迎えてもらうこともひとつの手だと思います。メイ・ハウンドは小さな団体ですが、これからも1頭でも多くの競技引退犬に素敵な家庭を見つけられるよう全力を尽くします」
レースを引退した競技犬に、たくさんの幸せが待っていることを願ってやみません。
*1 取材・写真協力:May Hounds