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2023.07.03
NZの保護犬事情とは?150年以上の歴史を持つ動物との共生を目指す活動~南半球のDog's letter~
世界の様々な地域に順応して暮らしている犬たち。
ところ変われば犬とのライフスタイルも変わります。日本とはちょっと違う?共通してる?目新しいドッグライフ情報を、自然豊かな南半球に位置するニュージーランドからお届けします。
ニュージーランドでは、さまざまな事情で保護された犬たちを新しい家族に迎えることが非常に多いそうです。…そう聞くと、なんだか動物福祉に関して先進的というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、問題点もあるのだそうです。
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この記事を書いた人:グルービー美子
ニュージーランド・オークランド在住のトラベルライター。JAL機内誌やガイドブック「地球の歩き方」などに寄稿。子供の頃から柴犬と暮らし、現在はサビ猫のお世話係。趣味はサーフィン。
動物愛護先進国ニュージーランド
動物愛護先進国として知られるニュージーランド。
動物福祉法が整備され、ペットから家畜まで健康で安全な生活が保障されています。
とはいえ、飼育放棄や虐待といった問題が皆無というわけではありません。
そこで、ニュージーランドの保護犬事情を探るべく、動物愛護団体SPCAに取材。広報官のジョージア・ジルバートソンさんに話を伺いました。(今回記事内で使用した写真はすべて動物愛護団体SPCAより寄稿されたものです)
行政ともパイプを持つ歴史ある団体
「SPCAはRoyal New Zealand Society for the Prevention of Cruelty to Animals Incorporatedの略で、動物福祉を推進する慈善団体です。もともとは1824年にイギリスで設立され、ニュージーランドでは1872年にスタート。150年以上の歴史を誇り、行政と強いパイプを持っていることがほかの保護団体との大きな違いでしょう」
そう説明してくれたジョージアさん。
SPCAにはニュージーランドの法律に沿った権力行使が認められており、例えば市民から「虐待を受けている動物がいる」と通報が入ると、警察とともに介入調査が可能。
強制的に動物を保護したり、飼い主を裁判にかけたりすることもできるのです。
「動物を保護し、獣医師や専門家のケアを経て里親を探すだけでなく、動物福祉の教育も担っています。小学校で命の大切さを教えたり、飼い主に適切な飼育法を指導したりするのもSPCAの役割。子供の頃から動物とどのように接するかを理解するのは重要なことだと考えています」
保護活動に必要な資金の調達方法は?
全国に50カ所近くのセンターを構え、精力的に活動するSPCA。
フルタイムで働く職員のほか、大勢のボランティアによって成り立っています。運営に必要な資金は、何と6300万NZドルにも達するとか。
そのうち8%は政府からの補助、残りの92%は寄付や70以上ある直営OPショップ(リサイクルショップ)からの売上で賄っているそうです。
日本でそれだけの額を寄付に頼るのは難しい気がしますが、ニュージーランドには寄付文化が根付いており、企業や富裕層が社会貢献のために寄付するのは当たり前という共通認識が存在します。
また、個人でも自身の誕生日にSNSで資金を集めるファンドライズを立ち上げ、周囲の人たちに「誕生日プレゼントの代わりに寄付をしてね」と伝えるのはよくあること。
ほかに学校行事でもたびたび子供たちが保護者と一緒にカップケーキやクッキーを作って販売し、その売り上げを寄付しています。
ちなみにOPショップでは古着からバッグ、アクセサリー、生活用品まで多彩なアイテムを扱い、良品が手頃に買えると人気があります。
コロナ禍と物価高騰で動物保護が激増
「2021年から2022年にかけて、SPCAでは4392頭の犬を保護しました。フィールドオフィサーと呼ばれる保護官は常に第一線で動物福祉の問題に取り組んでおり、恵まれない環境下に置かれた動物を引き取り、ケアを行っています。事故や災害で飼い主とはぐれた動物を保護することもあります」
センターに引き取られた動物たちは職員やボランティアの手厚いケアのもと、体と心を癒し、新しい飼い主を見つけます。
その期間は動物によってさまざま。ときには長い時間がかかることもあるとか。
譲渡費用は動物の種類や年齢などによって異なり、1頭75NZドル~300NZドル程度。昨年は1172頭の成犬と1071頭の子犬がSPCAを通して新たな家族を見つけたそうです。
「新型コロナのロックダウン中、安易な気持ちでペットを飼ったものの、結局世話をしきれずに投げ出してしまう……そんな悲劇は残念ながらニュージーランドでも多数起こりました。また、最近の急激な物価高騰により、犬や猫たちに十分なお金がかけられなくなった人も少なくありません。その解決策の一つとして、避妊・去勢手術のキャンペーンを始めました。このキャンペーン中、北島だけで犬猫あわせて600匹の手術を行うことを目標に活動しています」
ほかにも、災害時の備えについての情報提供を行うなど、飼い主と動物たちのセーフティネットともいえるSPCA。
すべての動物が幸せに暮らせるよう、尽力していました。
写真提供
*1 SPCA