- コラム
- 海外情報
2023.12.18
裁判所で子供たちをエスコート。心優しいコートドッグのお仕事とは?~南半球のDog's letter~
世界の様々な地域に順応して暮らしている犬たち。
ところ変われば犬とのライフスタイルも変わります。日本とはちょっと違う?共通してる?目新しいドッグライフ情報を、自然豊かな南半球に位置するニュージーランドからお届けします。
今回ご紹介するのは、ニュージーランドの裁判所で働く『コートドッグ』の存在です。
裁判所といえば、公平な裁判を通じて、憲法で保障されている権利や自由を守る厳粛な場所ですが、こんなところにも犬の存在がありました。
コートドッグたちの仕事には「犬だからこそ」の理由や背景があります。
心優しい犬だからこそできる、そっと傷ついた人々に寄り添う姿をぜひご覧ください。
多くの傷ついた人の心の拠りどころにもなる『コートドッグ』の仕事について、より多くの人に知っていただければ幸いです。
裁判所で働くコートドッグ
先進国の中で比較的治安がよいとされているニュージーランドですが、犯罪はたびたび発生しています。
そして時には子供たちが巻き込まれることも…。
被害者が警官に状況を説明したり、裁判所で証言したりすることは、大人にとっても相当なストレス。
ましてや子供には将来まで影響するトラウマになりかねません。
そんな時、コートドッグの出番がやってきます。
今回は、ニュージーランド北島タウランガの地方裁判所で働くコートドッグのメイベルを取材してきました。
先代の跡を継ぎ、介助犬からコートドッグに
ゴールデンリトリバーのメイベルがこの仕事に就いたのは2018年。
タウランガ地方裁判所の初代コートドッグだったラブラドールのルイが急病のために10歳で亡くなり、その跡を引き継ぎました。
ルイはニュージーランド初のコートドッグとして6年ほど勤務。
ルイの飼い主だったゲイル・ブライスさんは同裁判所の被害者アドバイザーであり、アメリカでは一般的なコートドッグの存在を知り、ニュージーランドにもこのサービスを取り入れたいと考えたそうです。
「ルイはこの国で初めて公式に認められたコートドッグで、多くの人々から愛され、素晴らしい仕事をしてくれました。彼を突然失って途方に暮れていた時、介助犬協会からメイベルを紹介されました」
メイベルは介助犬協会が2008年から行っている「パピーズ・イン・プリズン」プログラムの卒業犬でもあります。
同プログラムは、指定の刑務所内で受刑者が子犬を介助犬にするためのトレーニングを担うというもの。
このプログラムを通して受刑者に責任感や共感力が生まれ、更生に大いに役立つうえ、介助犬の数を効率的に増やすことができると評価されています。
刑務所という特殊な環境で子犬時代を過ごしたメイベルにとって、裁判所は特別緊張を強いられる場所ではありません。
以降、彼女はゲイルさんの新しいパートナーとして、目覚しく活躍しています。
コートドッグの仕事とは?
コートドッグの仕事とはどのようなものなのでしょうか?
メイベルはサポートが必要な被害者(主に子供)と裁判所の外で会い、エスコートするように一緒に中へ入ります。
裁判所に入るにはいくつかのセキュリティゲートがありますが、子供たちはメイベルに夢中で、気付かないうちにゲートを通り抜けているのだとか。
次に、メイベルはエレベーターのボタンを押し、被害者を証言室へと案内します。
証言室内にはテレビが置かれ、子供向け映画を流すなどリラックスできる雰囲気を心がけている様子。
でも心のケアに最も効果的なのは、メイベルが子供たちにぴったりと寄り添っていること。
メイベルがここで働くようになってから子供たちからスムーズに話を聞けるようになり、裁判の時間も短縮されているそうです。
「タウランガの警察官は全員スマホにメイベルの写真を保存していて、被害を受けた子供たちにそれを見せ、落ち着かせるそうです」とゲイルさん。
そして警官が「メイベルに会ってみたい?」と尋ねると、子供たちは表情を明るくさせて「会いたい」と答え、裁判所に来てくれるのだとか。
「アメリカでは41の州で約300頭のコートドッグが働いています。ニュージーランドでも各地方裁判所がコートドッグを導入してくれることを望んでいます」
そう話すゲイルさん。
この数年間、メイベルはニュージーランド唯一のコートドッグでしたが、今年8月、オークランド郊外のワイタケレ地方裁判所でもコートドッグの勤務がスタートしました。
また、同じ月にメイベルは首都ウェリントンを訪れ、国会でコートドッグの必要性をアピールしました。
今後は、ニュージーランドの各地で傷ついた心を持つ人々にそっと寄り添うコートドッグの姿が見られることを期待されています。