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2022.10.13
【#大きな犬と】血液検査から得られる情報はたくさん! 腫瘍専門の獣医師に聞く
同じ犬でも小型犬と大型犬では、育て方や食事など気をつけたいポイントがちょっと違います。でも世の中にある知りたい情報は小型犬向けが多いのが少々残念…。そんな飼い主さんのために、大きな犬にフォーカスした、健康や食事や遊びといった暮らしの情報を集めて紹介します。(POCHI編集チーム・大きい犬班)
今回のお役立ち情報健康
日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医Ⅰ種の資格を持つ、アーツ人形町動物病院(東京都中央区)の今井理衣獣医師に、血液検査に関して教えていただきました。血液から得られる身体の情報は腎臓や肝臓の状態からがんまで多数あり、定期的な健康診断などによる血液検査の重要性をあらためて実感させられます。
うちの子の正常値を知っておくことが大切!
「日本獣医がん学会」の最高位資格「獣医腫瘍科認定医(Ⅰ種)」を取得している今井理衣獣医師は、血液検査の重要性を次のように説きます。
「血液は身体の情報の宝庫なんです。なので、手術の前には安全に手術できるかどうかを確認するためにも血液検査は欠かせませんし、健康診断でも必須です」
健康診断は、若齢のうちから行うことで重要なデータを得られると、今井獣医師は言います。
「血液検査の正常値には基準があります。でも、その子によって正常値の範囲内で、もともと数値が高めだったり低めだったりするもの。うちの子の健康なときの正常値のデータこそ、若いうちに血液検査をとおして得ておきたいものです」
今井獣医師のもとには実際に、1歳の誕生日から毎年“うちの子”への誕生日プレゼントとして血液検査を行っている飼い主さんが訪れるそうです。
「たとえば5歳のときに何かの数値が基準値より高めだったとき、『この子はこの数値はいつも範囲内の上限に近くて高めなので、それほど心配はいりませんね』などと比較できるのが、“うちの子の基準値”を知っておくメリットです」
ちなみに、臓器の大きさや骨格の状態などがわかるレントゲンも同様に、身体の個性に関する情報を早めに知るための重要な材料となります。
血液検査には2種類ある
血液検査は、血液化学検査と完全血球計算の2種類に大別できます。
・完全血球計算:血液中の細胞数を数え、貧血、炎症、感染の有無などを調べる。
・血液化学検査:臓器の状態を調べる。
「完全血球計算の数値は、とても重要なことを伝えてくれます。
のちほど詳しく述べますが、たとえば白血球5分類のうちリンパ球数が多い場合、大型犬に比較的多く見られるリンパ腫や白血病を患っている可能性があります。(※リンパ球はワクチン接種後はに一時的に数値が上がる傾向があるため考慮が必要)
完全血球計算は、基礎的で重要な血液検査なんですよ」(今井獣医師)
臓器の状態を知る手がかりは、血液化学検査の数値から得られます。以下のとおり、複数の項目を見ながら総合的に判断をしていきます。
■ 血液化学検査からわかること
【腎臓】
・腎機能障害、腎不全:
アルブミン(Alb),尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cre.),尿素窒素クレアチニン比(BUN/Cre.),リン(P),カルシウム(Ca),カリウム(K),※IDEXX社の腎機能マーカー(SDMA)
・ネフローゼ症候群):
アルブミン(Alb),総コレステロール(TCho)
【副腎】
・副腎皮質機能亢進症:
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アルカリフォスファターゼ(ALP),ガンマグルタミルトランスペプチターゼ(GGT),総ビリルビン(TBil),総コレステロール(TCho),グルコース(Glu)
・副腎皮質機能低下症:
グルコース(Glu),尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cre.),尿素窒素クレアチニン比(BUN/Cre.),カリウム(K),ナトリウム(Na)
【肝臓】
・肝不全:
アルブミン(Alb),総コレステロール(TCho),尿素窒素(BUN),グルコース(Glu)
・幹細胞の腫大・壊死:
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
・胆管系疾患など:
アルカリフォスファターゼ(ALP),ガンマグルタミルトランスペプチターゼ(GGT),総ビリルビン(TBil),総コレステロール(TCho)
【膵臓】
・膵炎:
アルブミン(Alb),アミラーゼ(Amy),リパーゼ(Lip),尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cre.),カルシウム(Ca)
・糖尿病・低血糖:
総コレステロール(TCho),グルコース(Glu)
[追加検査]膵特異的リパーゼ、TLI、インスリン、フルクトサミン、CRP
【甲状腺】
・甲状腺機能低下症:
総コレステロール(TCho)
※ニューファンドランド、グレート・ピレニーズなど、大型犬の中高齢以上は気を付けたい病気。
[追加検査]T4,FT4,c-TSH
【副甲状腺】
アルブミン(Alb),尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cre.),尿素窒素クレアチニン比(BUN/Cre.),リン(P),カルシウム(Ca)
【腸】
総タンパク(TP),アルブミン(Alb),グロブリン(Glob),総コレステロール(TCho),ナトリウム(Na),カリウム(K),クロール(Cl)
【電解質】
ナトリウム(Na),カリウム(K),クロール(Cl)
【タンパク】
総タンパク(TP),アルブミン(Alb),グロブリン(Glob)
がん(悪性腫瘍)と血液検査の気になる関係
大きな犬は、がん(悪性腫瘍)に比較的かかりやすい傾向があります。
「血液検査だけで判断できるがんは少なく、レントゲン検査や超音波検査(エコー検査)、触診など、補い合う検査を実施しながら判断する必要はありますが、血液検査の数値ががんの存在を教えてくれることもめずらしくはありません。
また、大型犬はしこりができる固形がんができやすく、しこりは血液には影響しないことが多いですが、影響が出ることもあります」(今井獣医師)
腫瘍と関連性のある血液検査の数値は、以下のとおり。
・白血球の単球数が多い:
大型犬に比較的よく見られる肉腫(骨肉腫、組織球性肉腫、血管肉腫)の可能性がある。
「肉腫でもグレード3程度に進行していると腫瘍が大きくなり、腫瘍内部の壊死が起こります。そうすると、白血球の単球数が増えるのです」(今井獣医師)
・アルブミンが低値のとき:
固形がん(肉腫や腺癌)、リンパ腫、消化管の腫瘍
「ある種のリンパ腫や消化管の腫瘍などで炎症がひどいと、アルブミンの数値が低くなります」(今井獣医師)
・アルカリフォスファターゼが高値のとき:
骨肉腫
「骨肉腫を発症すると、初期は関節炎と見分けがつかないことも。触診とレントゲン(X線)検査や局所の超音波検査で詳細にしらべます。そのようなケースでは血液検査も予後の指標になります」(今井獣医師)
・血小板減少や貧血のとき:
組織球性肉腫
「バーニーズ・マウンテン・ドッグやフラットコーテッド・レトリーバーが好発犬種である組織球性肉腫が疑われた場合、触診、X線検査、超音波検査やCT検査を行い、病理組織検査で確定診断をするのが重要です」(今井獣医師)
血管肉腫
「大型犬に多く、体表以外の見えな部位では脾臓や心臓に発生します。早期から血小板減少症等の血液学的異常をもたらします。定期的な超音波検査も重要です」
・カルシウムが高値のとき:
リンパ腫、骨髄腫、肛門嚢腺がん、上皮小体腫瘍など多くの腫瘍
「高カルシウム血症が、腫瘍随伴症候群(腫瘍ができた部分と直接関係はないが腫瘍が原因で生じる)で起きているケースもあります。予後に関わる場合もあります」(今井獣医師)
・リンパ球が多い:
血液のがんが疑われ、リンパ球がリンパ節で増えるとリンパ腫、骨髄で増えると白血病。
「白血病にも慢性リンパ球白血病と急性リンパ性白血病があり、ゴールデン・レトリーバーなどで慢性リンパ球白血病が疑われる場合はゆっくり進行するため、リンパ球の数値を定期的に確認することをおすすめします。
また、大型犬には、リンパ球が無限増殖をする未分化型のリンパ腫が多く見られます。体表のリンパ節の腫大がみられるため、発見はしやすいですが、この場合、抗がん剤で増えたリンパ腫を断ち切る治療が有効です。リンパ腫でもタイプによって治療方針が異なります。
なお、抗がん剤治療をしている犬では、肝機能が正常かを調べるためにビリルビンの数値チェックが欠かせません。抗がん剤は肝臓で代謝や排泄、腎臓でも排泄する薬剤が多いですが、ビリルビンの数値が高いと代謝や排泄が遅くなることがわかります。数値が正常値になってから、抗がん剤治療を継続しなければなりません」(今井獣医師)
・総タンパクの異常、グロブリンの数値が高い、アルブミンの数値が低い:
骨髄腫、リンパ腫
「アルブミンとグロブリンの数値を足すと、総タンパクです。グロブリンの数値が高いと慢性炎症のときもありますが、リンパ腫や骨髄腫の可能性もあります。また、リンパ腫や大きな腫瘍があるとアルブミンが下がることもあります」(今井獣医師)
・低血糖のとき:
大きな肝臓のしこりがあると、低血糖の発作が起きることがある。
「低血糖に加えてアルカリフォスファターゼで何万という数値が出ていたら、超音波検査で肝臓腫瘍の有無等の病変がないかを確認します。肝臓腫瘍は、手術で切除すれば腫瘍の種類によっては予後は悪くない場合もあります」(今井獣医師)
定期的な血液検査を欠かさずに健康管理を
血液検査は、どの場所がどのような状態かを、網を張りながらチェックしていくものだと言えます。
「うちの子の正常値を知るために、まずは年に1回、血液検査を受けさせましょう。大きな犬が緊張するようならば、フィラリア抗原検査の採血時に一緒にというところからが、ハードルが低いかもしれません。もしそこで異常が見つかったら、獣医師の指示に従って追加の検査を行ってください。若齢時は、それ以外の検診項目としてはX線検査や尿検査をしておくと良いでしょう。
5歳を超えた大きな犬場合、年に1回の血液検査と同時に尿検査、X線検査と超音波検査(これらを健康診断やドッグドックとしてセット提供している動物病院もあります)をおすすめします。その結果で追加検査や再チェックが必要な場合は獣医師の指示により、また、問題がなくても大型犬は半年後にはX線検査や超音波検査はしておくと良いでしょう。
血液検査だけでは、得られる情報が少ないため、ほかの補い合う検査を受けさせるのが重要なのです。
たとえば、片方の腎臓ががんになっても、血液検査上は数値が上がらないことも。腎臓は2つあるため、異常のないほうの腎臓が機能を補いやすいく、機能の7~8割が失われてから数値の異常が見られます。腎機能の異常の有無を早期に知るには、尿検査も有用です。
なお、当院が使用しているアイデックスの血液検査では、早期に腎機能の変化がわかるSDMAと呼ばれる検査も可能です」と、今井獣医師は述べます。
年齢、性別、犬種をよく考慮しながら血液検査の数値を読むのも重要です。
「たとえば年齢によって、たんぱくや腎臓の数値も正常値の範囲が違いますからね。ある数値が少し高くなったと心配される飼い主さんがいますが、年齢による基準値の範囲であれば以前の値と比較したりすることが重要になりますし、加齢性変化で見られる病変によるものの場合もあります。
そのため、アイデックスの血液検査の参考値は、年齢などによって3つに分類されています。
機械などによって基準となる数値が違うこともあるので、セカンドオピニオンや転院などで血液検査結果を持って訪れた患者さんのデータは、そういった点も注意しながら見ています」(今井獣医師)
血液検査は病院内でできるものと、追加で外注に出す必要があるものがあります。外注検査は通常の検診セットもありますので、健康な時はこれを利用すると良いでしょう。
もし外注の血液検査で異常がわかった場合、今井獣医師は血液塗抹を作り、顕微鏡で細胞の形や数などを確認することも少なくありません。
「数値の異常があると、リンパ球に異常がないかどうかを肉眼で確認したくなりますね。
赤血球の形態を観察したり、赤血球内の寄生虫などを見つけたりして、貧血の原因を探るケースもあります。今はPCR検査で確認できることが多いのですが、結果を待つ時間に血液塗抹も観察します。
なお、大型犬に多いリンパ腫など血液のがんの進行度を確認するのにも、血液塗抹は有効です」
若齢期からの定期的な血液検査や健康診断をとおして、血液などから得られる情報を活かし、大きな犬の健康寿命を延ばしてあげたいものです。
ライター:臼井 京音
*1 取材協力: アーツ人形町動物病院
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